第2部 風邪薬事件

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森田昭に対する殺人事件、川村富士美に対する殺人未遂事件は、いずれも市販の風邪薬が凶器となったと疑われているので、われわれは、これらの事件を「風邪薬事件」と呼んでいる。「風邪薬事件」の訴因(検察官の主張)は、次のとおりである。

被告人3名[1]は、共謀の上、被告人アナリエ・サトウ・カワムラらを受取人とし、川村富士美(当39年)を被保険者とする生命保険契約に基づく死亡保険金を取得する目的で同人を殺害しようと企て、平成10年7月ころから同11年5月下旬までの間、埼玉県本庄市寿2丁目3番1号飲食店「小料理マミー」店舗内及び同市寿2丁目3番41号飲食店「パブマネキン」店舗内において、同人に対し、殺意をもって、反復継続してアセトアミノフェン等を含有する総合感冒薬等及び高濃度のアルコールを含有する飲料を多量にえん下、飲用させ、これらの過量長期連用による肝障害等により同人を殺害しようとしたが、同月30日、同人が身体の不調を訴えて病院に収容されたため、同人に急性肝障害、好中球等の減少による抵抗力低下等の傷害を負わせるにとどまり、殺害の目的を遂げなかったものである。 (平成12年5月8日付起訴状)

 被告人4名は、共謀の上、被告人森田考子らを受取人とし、森田昭(当時61年)を被保険者とする生命保険契約に基づく死亡保険金を取得する目的で同人を殺害しようと企て、平成10年8月こらから同11年5月下旬までの間、埼玉県本庄市寿2丁目3番1号飲食店「小料理マミー」店舗内及び同市寿2丁目3番41号飲食店「パブマネキン」店舗内において、同人に対し、殺意をもって、反復継続して、アセトアミノフェン等を含有する総合感冒薬等を多量にえん下させ、連日のように深夜早朝に至るまで高濃度のアルコールを含有する飲料を多量に飲用させるなどし、よって、右総合感冒薬等の過量長期連用による副作用等によって好中球の減少及び低栄養状態等による抵抗力の低下を惹起させ、同月29日午前2時ころ、同市寿2丁目3番11号付近において、同人をこれに伴う化膿性胸膜炎、肺炎等により死亡させて殺害したものである。(平成12年5月30日付起訴状)

風邪薬事件について八木を有罪とするためには、次の事実が証拠によって証明されなければならない。

川村事件

① 風邪薬や高濃度のアルコールを飲ませる行為が人を殺す危険がある行為であること

② 3人のうちの誰かが、川村に風邪薬や高濃度のアルコールを飲ませたこと

③ 3人が川村に風邪薬や高濃度のアルコールを飲ませることによって殺害することを共謀したこと

森田昭事件

①  森田昭がアセトアミノフェン等を含有する風邪薬の副作用によって、好中球減少、低栄養状態によ     る抵抗力の低下を来たし、化膿性胸膜炎、肺炎を起こして死亡したこと

②  4人のうちの誰かが、森田昭に風邪薬や高濃度のアルコールを飲ませたこと

③  4人が森田昭に風邪薬や高濃度のアルコールを飲ませることによって殺害することを共謀したこと

森田昭を解剖した医師によると、彼は、化膿性胸膜炎、肺炎で死亡したということである。では、森田昭は、なぜ化膿性胸膜炎、肺炎になったのか。風邪薬の副作用によって好中球減少、低栄養状態を引き起こし、その結果、化膿性胸膜炎、肺炎になったと言えるのだろうか。風邪薬の副作用として好中球減少という症状が生じるのだろうか。そもそも、森田昭には、好中球減少という症状が生じていたのだろうか。化膿性胸膜炎、肺炎の原因は、別にあるのではないか。

川村に対する殺人未遂罪が成立するためには、川村に対して風邪薬を飲ませるという行為が、殺人行為、つまり、人を殺す危険がある行為と言えなければならない。果たしてそう言えるのか。

そして、4人(3人)のうちの誰かが、森田昭や川村に風邪薬やアルコールを飲ませていたという事実はあったのか。

仮に、八木以外の誰かがそれらを飲ませていたとしても、それが八木の指示に基づくものでなければ、八木は無罪である。八木の指示はあったのか。

第2部では、まず、森田昭の死因、つまり、森田昭がなぜ化膿性胸膜炎、肺炎になったのかを検討する(第10章)。川村については、死んでしまうかもしれないような「症状」があったのかどうかを明らかにする(第11章)。次に、果たして、風邪薬で人を殺すことができるのかについて考察を加える(第12章)。続いて、森田昭の死や川村の「症状」が風邪薬抜きでも説明できるということを述べる(第13章)。そして、最後に、武が森田昭や川村に風邪薬を飲ませていた事実があるのかどうか(第14章)、仮にそのような事実があるとして、それが八木の指示に基づくものなのかどうかに言及する(第15章)。

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