「取調室」という名の闇

itsuwari_page_itsuwari_3

「記憶回復セラピー」のカウンセリングルームと同様に或いはそれ以上に偽りの記憶を作り出す可能性が高い極めて特殊な空間が存在します。
それが、取調室です。

「虚偽自白が冤罪を生む」ということはよく言われます。
ただ、私達が通常イメージする虚偽自白は、長い身体拘束の苦痛やストレスに耐えられずに自白してしまうもの或いは取調官の脅迫又は刑を軽くしてやるという「約束」に迎合してしまうというものだと思います。つまり、いずれにしても、自分が犯人でないことは自分が一番よく分かっているが仕方無く自白してしまうという心理状態が想定されます。

ところが、実際の虚偽自白のタイプには、自分が罪を犯した犯人であるという記憶が無かったにも関わらず、最終的には自分がやったに違いないと被疑者が納得してしまう「納得型虚偽自白」というタイプがあります。当然ですが、この納得型虚偽自白をした被疑者は、実際には犯人でないので、取調官に犯行のディテールを説明することができません。
やっかいなのは、取調官は被疑者が犯人であると確信している場合が多いということです。そのような取調官は被疑者に対して、有罪の証拠を突き付けながら「お前は記憶を失っているに違いない」と説得し、被疑者がディテールを思い出せないことは記憶喪失が原因であると納得させます。そして、セラピーを受けた女性が抑圧された虐待経験を受け入れるのと同様のメカニズムで、「私はこの罪を犯したのだろう」という記憶を「思い出す」ことになります。

以下のやりとりは、オフシーとレオが紹介する納得型虚偽自白がなされた実際の取調の一場面です(id., pp1107-1110)。犯行のディテールを説明できない無実の被疑者に対して、捜査官は様々な誘導尋問をします。さらに、実際にどうだったのか推測し、イメージを思い浮かべるように懸命に彼を励ます様子がわかります。まさにセラピストが患者にするようなやり方です。

取調官1:何が見える?
被疑者:何も見えません。まだ私は自分に「違う。おまえはやってない」と言っています。
取調官2:かまわないさ。君はもうイメージを思い浮かべることができたんだから、やったに違いない。そうだろう?
取調官1:さっき君が言った話は実際に思い浮かんだんだろう?君は自分の話した情景が眼に浮かんだんだよね?
被疑者:はい、でもあれは僕の家の中の様子だ。
取調官1:君の家で起こったことなのか?
被疑者:どうやって彼女を彼女の家まで連れて行ったのかが分からないんです。
取調官1:すぐそこだよ。同じ通りだ。ほんの数フィートだよ。
被疑者:彼女の家の中の様子がわかりません。
取調官1:灯りは点いていたか?
取調官1:そうか。灯りが消えていたんだ。だから、君は彼女の家の中の様子が分からないんだ。そう思わないか?
被疑者:いや。
取調官1:君の家のどの辺から始まったんだい?寝椅子から?
被疑者:その絵が見えます。
取調官2:寝椅子の上か?どんな絵か言ってごらん。
被疑者:僕は勝手に想像しているだけかもしれません。……
取調官2:ちゃんと話して欲しい。
取調官1:わかった。とにかく最後まで聞こうじゃないか。その絵を動かして、われわれに説明してくれ。最後まで聞こうじゃないか。最後まで君に見えるものを説明してくれ。その後で、これが君の記憶なのかどうか考えよう。
取調官2:1、2、3、ゴー。やるんだ、トム。

Comments are closed