溺死鑑定の概要

即時抗告審の裁判所により選任された法医学者の溺死鑑定は、プランクトン検査という手法によって行われました。

川の中にはたくさんのプランクトンがいます。溺死の場合は水と一緒にプランクトンが肺内に取り込まれ、肺胞を破って肺動脈を伝って心臓、肝臓、腎臓といった大循環系の臓器に至るとされています。他方、亡くなってから川に放り込まれた場合には、肺内に多量の水が取り込まれることもなく、また血液の流れが止まっているため、プランクトンが大循環系の臓器に至ることはありません。

こういった原理をもとにして死因を検証するのがプランクトン検査に基づく溺死鑑定です。鑑定に際しては珪藻という種類のプランクトンの数や種類を数えますが、これは、固いガラス質を膜として持っているため、形が維持されやすく、数えやすいためです。

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溺死体及び死後没水死体におけるプランクトン被殻の分布(大矢正算ほか編著『法医・裁判化学[第3版]』)

 

 

法医学的には、心臓や肺などの大循環系臓器から検出される珪藻の数が臓器約22gあたり数個〜十数個であれば溺死と判断されます。今回、肝臓の内側からは1gあたりに換算して約0.29個、心臓の内側からは同じく1gあたり0.14個の珪藻が検出されました。これは臓器22gあたりに換算するとそれぞれ6,38個(肝臓の内側)3.08個(心臓の内側)となりますから、法医学の常識から言って溺死を裏付ける数値です。

 

また、法医学的には、大循環系に見つかるプランクトンのサイズや種類についても溺死か否かを分ける基準があります。まずサイズについて、溺死の場合に大循環系の臓器から見つかるプランクトンは小さいもの細長いものです。これは、小さくなければ肺胞を通過することができないためです、また種類について、溺死の場合に大循環系から見つかるプランクトンは肺からも見つかります。これは、肺を経由して大循環系に至る以上、当然のことです。肺には見つからないプランクトンが大循環系から見つかった場合には、迷入(コンタミネーション)が疑われるとされています。

 

今回、肝臓の内側から発見された珪藻の大きさは11.0μm〜15.9μmであり、心臓の内側から発見された珪藻は14.6μmです。珪藻は、大きいものであれば100μmを超えるものも多く、実際に肺の内側には100μmを超える大きさの珪藻が散見されています。つまり、この検出結果は、珪藻の中でも小さいものだけが大循環系から検出されたということを表しており、溺死の場合のメカニズムと合致します。

肝臓の内側から見つかった珪藻

 

心臓の内側から見つかった珪藻

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、検出された珪藻の種類も、溺死の場合のメカニズムと合致していました。大循環系から検出された珪藻は、いずれも肺内から見つかった珪藻と同じ種類だったのです。

 

肺の内側から見つかった珪藻①

 

肺の内側から見つかった珪藻②

 

 

  これらの事実から、法医学的に佐藤氏の死因が溺死であることが明らかとなりました。極小の珪藻が佐藤さんの真の死因を明らかにしてくれたのです。

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