【不定期連載】 絡み合う3本の糸③(ニチイのレシート その2)

 9月8日から26日まで,警察官による森田さんに対する取調べが集中的に行われました。この取調べの中で,8月1日付けの森田さんの上申書の内容を発展させるような供述調書が作られてゆきます。

八木は「いつもこのメンバーでいたってしょうがない。個人個人それなりのアリバイを作らなくちゃならない。ターはいいや。昼間アピタに行ってるんだし。アンナは奥さんだし,多分何かと調べられるだろうから,しっかりしなくちゃならない。」と話しました。(H12/9/12警察官調書)

  

 この調書では,別荘謀議全体について詳細に語られているのですが,アリバイ計画について語られているのは,この部分だけです。「ニチイ」,「レシート」という言葉はもちろん,買物のことすら語られていないのです。

  捜査官は,これだけでは満足しませんでした。もっと具体的な供述が欲しがりました。具体的な供述が得られれば,それを元に,法廷で具体的な証言をさせることができ,そのことは,「具体的かつ詳細であり,迫真性に富んでおり,信用性が高い」などとして,裁判所から非常に高い評価を受けるからです。そこで,捜査官は,再度,森田さんに上申書を書かせます。これが10月3日から16日まで間のことです。

平成7年6月3日,佐藤修一を殺した日の夜,レオの店で八木とマミが話をしたとき,そばで私はその会話を聞いていたので,そのときのことを話します。

マミ「午後アンナと2人でニチイに行って,昼を食べ,化粧品屋に寄った」と話したのです。マミはいつもカネボウの化粧品を使っていたのです。(H12/10/3上申書)

 

 ここで「ニチイ」という言葉が初めて登場します。ただし,6月1日の別荘での話しとしてではなく,6月3日の八木さんと武さんの間のごくありふれた会話を立ち聞きしただけであるという点に注意すべきです。5年も前のこのようなありふれた場面の会話を覚えている人など,本当にいるのでしょうか。

  この上申書を受けて,警察官調書が作成されます。

[6月1日別荘謀議について]八木は,「とりあえず,アンナもマミちゃんといるしかない。昼間は2人で行動しろ。あくまでも1日マミちゃんと一緒にいろ。ちょうどディナーショーが入ったから,夜はそのまま店に行っちゃうから大丈夫だと思うけど,昼間は確実にいなかったというのを作らなくちゃならないから,買ったもののレシートを取っておかなくちゃならない。レシートには時間が書いてあるから」と話しました。(H12/10/20警察官調書)

 

 ここで,「レシート」という言葉が初めて登場します。また,10月3日の上申書では,6月3日にニチイで化粧品屋に寄ったとして語られていたものが,ここでは,6月1日にそのような謀議があったものとして語られています。つまり,10月3日の時点からさらに供述が進化しているのです。

  そして,森田さんの供述は,10月23日,11月2日の検察官による取調べを経て,次のような形で完成します。

八木「アンナとマミは自分たちでアリバイを考えろ」

八木の指示に答えてマミは「私とアンナはニチイで買物するよ」と言いました。私はこれを聞いてアナリエとマミがディナーショーに行く前に2人でニチイに買い物に行き,それをアリバイにするのだと思いました。

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また,八木は,「マミとアンナが買い物に行くならレシートをもらっておけ。レシートには時間が書かれてあるから」と言いました。買い物の時間を証拠に残しておくことで,この時間は,ニチイで買い物をしたので,佐藤さんを殺せませんというアリバイに使おうとしているのだと思いました。(H12/10/23検察官調書)

 

八木は,「ディナーショーに行く前にアリバイを作っておけ」と言いました。

マミは,八木のアリバイの指示に答えて「私とアンナはニチイで買い物をするよ」と言い,その後,「化粧品がなくなったから買わなくちゃ。いつもそこで買ってるんだよね」と言いました。

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また,八木は別荘で「マミとアンナが買い物に行くならレシートを忘れずにもらっておけ」と言いました。レシートを証拠に残しておくことで,ニチイでの買い物をきちんとしたアリバイに使おうと思っているのだと思いました。誰も八木のアイディアに反対しませんでした。もっぱら八木1人がしゃべって,時折マミが質問したり確認したりする程度でした。(H12/11/2検察官調書)

 

(つづく)

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