【不定期連載】 絡み合う3本の糸①

 以前のブログで好評を博していた不定期連載「絡み合う3本の糸」について、過去の掲載を転載しつつ、ウェブサイトでも引継ぎ連載を続けます。

 なお、この連載は、「死刑判決の問題点 第8章 絡み合う3本の糸」の補足版です。是非併せてご覧下さい。

 

【以下転載】

 一審,さいたま地裁の公判では,八木さんの「共犯者」とされる武まゆみさん,森田考子さん,アナリエさんがそれぞれ証言しました。判決は,この3人の証言について,次のように評価し,八木さんが有罪であることの理由のひとつとしています。

これら3名の証言する内容は,基本的な筋道においてよく合致しているばかりか,例えば,次のように,本件の骨格をなすとみられる重要な場面における一見極めて些細と思われる部分においても,相互によく符合している。

 

 3人の証言が,「一見極めて些細と思われる部分」まで一致しているというのは,さいたま地裁の判決が指摘するとおりです。

 あるひとつの出来事を体験した複数の人が,それぞれ,その出来事を振り返って語ったときに,そのそれぞれが語った内容が一致したとすれば,実際に,その語られた内容のとおりの事実があったという可能性はとても高くなるでしょう。

 たとえば,オートバイによるひき逃げ事件を目撃した通行人が3人いて,その3人が3人とも,「オートバイの人は赤いヘルメットをかぶっていた」と証言していれば,そのひき逃げ犯人は,赤いヘルメットをかぶっていたと考えてよいでしょう。

 ただし,そう考えてよいのは,3人が,初めから,「赤いヘルメットをかぶっていた」と証言していた場合に限られます。たとえば,目撃者のひとりBさんは,最初は,「犯人は黒いヘルメットをかぶっていた」と証言していたけれども,他の目撃者Aさんが「犯人は赤いヘルメットをかぶっていた」と話しているのを聞いて,「やっぱり,犯人は赤いヘルメット」と話しを変えたとしたらどうでしょうか。あるいは,目撃者Cさんは,最初は,「犯人のヘルメットの色は憶えていない」と証言していたのに,「犯人は赤いヘルメットをかぶっていた」というAさんの証言を聞いて,「そう言えば,犯人は赤いヘルメットをかぶっていた」と話し始めたとしたらどうでしょうか。3人の最終的な証言は「赤いヘルメット」で一致していますが,だからと言って,オートバイのひき逃げ犯人が赤いヘルメットをかぶっていたと確信できるでしょうか?

 武さん,森田さん,アナリエさんの3人の証言もこれと似ています。3人の証言は,公判においては,「一見極めて些細と思われる部分」まで一致していました。しかし,この3人の証言が完成するまでには,紆余曲折がありました。どのような紆余曲折だったのか,これから少しずつ紹介しましょう。

(つづく)

鍜治伸明

 

【以上転載】

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