一審判決(抄)

 

第六 情況証拠の有無

 

弁護人は,渡辺荘における佐藤殺害の事実がなかったことを裏付ける状況証拠として,以下の点を挙げるので順次検討する。

一 まず,弁護人は,株式会社生保リサーチセンター調査員白石貞一の安田生命保険宛報告書によれば,「平成7年7月20日,行田警察署長殿談」として,平成7年6月3日午後5時ころ婦人用自転車によって出かけていく佐藤の姿を目撃した人がいるという情報を得ていたと記載されている点を指摘する。

しかし,同報告書には,警察確認と同日付け(同月10日付けと読めなくもないがはっきりしない)の家族確認の欄にも,被告人同席の下でアナリエの談話として,全く同じ情報が記載されているところ,被告人が同席していることにも鑑みると,被告人がアリバイ工作の一環として,上記の虚偽情報を流した可能性が高いと認められる。

 

二 次に,弁護人は,被告人らが佐藤を殺害したのだとすれば,武がタクシーに聞き込みに行った際,わざわざタクシーのナンバーを控える必要はないのであり,このことは武が真剣に聞き込みをしていたことの証拠であると指摘する。

しかし,聞き込みが偽装であるか否かに関わらず,同じ運転手に何度も同じことを尋ねる愚を犯すことのないよう,タクシーのナンバーを控えるということはそれほど不自然なことではない。なお,被告人の当公判廷における供述を前提としても,佐藤は,最終的には,武の自動車で坂東大橋に行ったことになり,本庄駅で,タクシー運転手に対し,佐藤を坂東大橋まで乗せなかったとういう質問をすることは無意味ということになるから,被告人らが真剣にタクシー運転手から佐藤の情報を得ようとしていたなどという弁護人の主張は成り立つ余地がない。

 

三 次に,弁護人は,武証言によれば,同人らは。佐藤の死体を探し出して保険金取得に結びつける目的とともに,家族らが心配して佐藤を探しているという様子を関係機関にアピールする意図もあったと認められるところ,後者の目的からは,実際の遺棄場所よりも下流ばかりを探して,坂東大橋の近くを探さずにいたのでは不審を招くなどと考えて,投棄場所よりも上流の坂東大橋に近い地域も探したのだとすれば,何ら不自然ではない。

 

四 次に,弁護人は,武証言によれば,被告人らは,坂東大橋に佐藤が飛び込んだ痕跡を探しに行き,手の跡を発見したとされているところ,仮に被告人らが佐藤を殺害したのであれば,この捜索は無意味であると主張する。

しかし,関係証拠を総合すると,坂東大橋から飛び降りる際,手すりに川村が見たような手の跡(甲306号証付の写真9参照)がつくとは考え難い上,仮についたとしても,それが数日間にわたって残っていたとも考え難い。手の跡の捜索に川村が同行させられていることや,武証言から窺われる発見時の状況の不自然さなどに照らすと,これは,佐藤が坂東大橋から飛び込んだことを川村に印象づけるために行われた偽装工作であると認められる。

 

五 最後に,弁護人は,被告人らが作成した,佐藤を捜索するためのビラには,セーターを着ていたという記載も,平成7年6月3日の午後3時から行方不明という記載もなく,逆に,黒い靴を履いていたという記載があるのであって同月1日の謀議に関する武証言等とは矛盾していると指摘し,このことは,謀議に関する証言が虚偽であることの証拠であると主張する。

しかしながら,武やアナリエの証言によれば,当初の計画では,被告人は,佐藤の死体が発見された際には,革ジャンパーによって佐藤の死体であることを特定しようと考えていたというのであり,セーターを着せたのは,佐藤の死体に革ジャンパーを着せ終わった後,このままでは革ジャンパーが脱げてしまうかもしれないとのとっさの思いつきによるものであることが認められるから,ビラを作成する際にはあくまで革ジャンパーを強調する余りセーターの点を書き落としたか,あるいはそれを不要として無視したということが考えられる。また,家出人探しのビラに裸足であったと記載するわけにはいかないから,佐藤が日ごろ常用している黒い靴を履いていたと書くことも別段不自然ではない。

なお,前記のとおり,被告人の当公判廷における供述によれば,被告人及び武は,坂東大橋に飛び込む直前の,セーターを着た佐藤の姿を見ているはずであるから,被告人の供述を前提とした場合にも,ビラにセーターの記載がないことの説明はつかない。

 

itsuwarinokioku_line

Comments are closed