一審判決(抄)

第八 關と川村の薬剤やアルコール摂取の状況

 

一 関係証拠を総合すると,被告人らが關と川村について,それぞれ森田やアナリエと偽造結婚させて,多額の生命保険に加入した上,総合感冒薬やアルコール等を長期間にわたって連日摂取させた状況は,前記【犯行に至る経緯と罪となるべき事実】の第三章の一ないし六の項で認定したとおりであると認められる。

二 上記認定の基礎をなす武の自白の一般的信用性については,既にトリカブト事件の項において検討したところであり,関係証拠を総合すると,風邪薬事件についての自白は,既にみた鑑定結果などともよく符合しており,トリカブト事件の自白に比して一段とその信用性は高いものと考えられるが,弁護人は,風邪薬事件についての武の自白には,關と川村の両名に一定期間毎日総合感冒薬を飲ませていたとの証言部分が毛髪鑑定の結果と矛盾するなど不自然であり,供述内容に著しい変遷も認められるとしてその信用性を争うほか,川村証言についても,武から飲まされていた薬剤が総合感冒薬であるとの証言は疑わしいとしてその信用性を争う。

まず,弁護人は,武の証言を前提とすれば,摂取させたアセトアミノフェンの総量は川村が關の約2倍程度であるのに,前記中原による毛髪鑑定の結果では,逆に,關の毛髪から検出されたアセトアミノフェン濃度が10.58ナノグラム/ミリグラムであるのに対して,川村の毛髪のそれは0.2ナノグラム/ミリグラムであり,両者の差が52.9倍にも達するとして,武証言の信用性を争う。

しかしながら,関係証拠によると,薬剤の人体に対する吸収の仕方や,消化器官から吸収された薬剤成分が毛髪へ移行するにしても,その割合については相当に個人差のあることが窺われる上,武は,平成11年の1月ころ,アニマリンLの瓶に入れたプレコール持続性錠を飲ませるようになってから,川村が頻繁に吐くようになったとし,吐くタイミングはその時々で異なるが,飲ませた直後ということもあったし,10分から20分ぐらいたってからということもあったが,20分以上たってからということはなかったように思う旨証言しており,川村もほぼ同趣旨の証言をしているので,川村は薬剤服用後早期に嘔吐していたことが認められるのであり,一方,關については,武はこのような状況を何ら証言していないばかりか,既にみたように,關は武から飲まされる薬剤に加えて,被告人が届ける薬剤をも飲んでいた形跡があるから,これらの点を考慮すると,關と川村のアセトアミノフェンの毛髪濃度に弁護人の指摘する差異のあることが直ちに武の証言の信用性を失わしめるものとはいえない。

三 次に,弁護人は,中原鑑定によると,關の毛髪から武の与えたと証言している薬剤以外の成分が検出されていることや,「サンエスドラッグ日の出店」と「ベスト花園薬局花園店」において購入された薬剤の種類と武が關や川村に与えたとする薬剤の種類が合致しないことを挙げて武証言は信用できないという。

しかしながら,既にみたとおり,關に対しては,武が与えるのとは別に被告人が自ら薬剤を購入して關の自宅に届けるなどしていたことが証拠上明らかであり,前記のとおり,被告人が購入に当たって店員に対して実体とは異なる理由を述べており,使用目的について不審の念を抱かせる言動をしていることなどにも徴すると,被告人が「サンエスドラッグ日の出店」と「ベスト花園薬局花園店」以外の薬局においても薬剤を購入している可能性は十分にあり得るところであり,購入した薬剤の種類もこれらの薬局で購入したものだけにとどまらない可能性があるから,關の毛髪から武が与えたと証言している薬剤以外の成分が検出されたことや,關,川村の両名に武が与えたと証言する薬剤の種類と上記2店で購入された薬剤の種類が合致しないことは,何ら異とするに足りない。

四 弁護人は,武の証言は,川村の証言との間に,飲んだ薬剤の種類や量,その容器,飲ませた際の武の言動などの点で食い違いがあり,信用できないという。

しかしながら,武証言が全体として合理的で内容も明快なのに反し,川村は,その証言内容や態度に照らすと,物事のあった時期や順序,その内容などの点で自信がもてず,証言内容が曖昧で漠然としていたり,明らかに客観的事実と相違する証言をした後,問い直されてそれを訂正するなどの部分が多くあり,その認識能力や表現能力などは必ずしも十分ではないといわざるを得ないので,このような川村証言との間に弁護人が指摘するような部分において矛盾する箇所があるからといって,武の証言が信用できないというものではない。

五 弁護人は,武の証言には,關や川村に対してイブA錠を与えたのかどうか,平成11年4月ころ關に新ルルA錠などを与えていたことがあるのかどうか,川村に新ルルA錠とは別にプレコール持続性錠を与えたことがあるのかどうかとその錠数,本物の「つかれず」が入った容器と中身を新ルルA錠に入れ替えるなどした偽物の「つかれず」の容器の保管場所などの点に不合理な変遷があると主張する。

しかしながら,關や川村に対してイブA錠を与えていた時期があることや,川村に対して新ルルA錠とは別に精力剤と偽ってアニマリンLの瓶にいれたプレコール持続性錠を3ないし5錠与えていたことについて,武は,捜査当初隠したり,供述を始めてからも与えた錠数については少な目に話したりした旨証言しており,また,關に対して平成11年4月にも新ルルA錠を与えた点については,武は,自己が与えた薬のせいで關が死んだと思われたくなかったので,自白に転じた後においても,一時,死亡時期に近いころの薬剤投与の事実はかくしていたという趣旨の証言をしており,武証言全体の趣旨に照らして,これらの点に疑義を抱かせる事情はないと認められるので,供述が変遷したことに理由がないとはいえない。本物の「つかれず」の容器と偽物の「つかれず」の容器の保管場所を同年の始めに入れ替えたことがあることについては,武は当公判廷で始めて証言したことを認めており,その点,これに触れていない捜査段階の供述から変遷があるとはいえるが,この部分に関する武の証言内容や態度には,検察官に迎合した作話であることを疑わしめるような特段の事情を見出すことはできないから,これまた供述が変遷したことについて合理性がないということはできない。

六 弁護人は,武の証言が,川村が「つかれず」にイブA錠を混入しても気がつかなかったとか,被告人が武自身も知らないうちに「つかれず」の瓶にプレコール持続性錠を混入させたなどという作話を混ぜていること,白い錠剤恐怖症になったと言いながらその後も白い錠剤である「つかれずバランス」を飲み続けているなどの点で,その証言内容自体においてふしぜんな箇所があると主張する。

しかしながら,武証言によると,川村はもともと「つかれず」10粒くらいを飲む際にも,1度口の中でなめて酸っぱい思いをしたのに懲りて,それ以降は味わわないで素早く飲み込むことにしていたというのであり,この点に加えて,武証言や川村本人の証言内容,態度から窺われる川村の性格などをも勘案すると,「つかれず」にイブA錠を混ぜ,さらには10粒すべてをイブA錠にすり替えても,川村がそのことに気づかないということはあり得ることと思われる。

次に,被告人が「つかれず」の容器の中にプレコール持続性錠を混入させたことを知った経緯については,武は,平成11年3月ころ,被告人から,「なあ,マミ,分かったか。」と聞かれ,「何が。」と聞き返すと,「マミが分からなかったら大丈夫だ。あの「す」の瓶の中にルルが入ってるだろう。その中にプレコールを混ぜておいたんだ。似てるから分からないだろう。」と言い,その時期については,「幾日か前。」と答えた,その際,被告人は「敵を欺くには,味方からだから。」という発言もしていた旨証言しているところである。この証言内容は,迫真的で自然なものであって,前後の証言内容や態度等を子細に検討しても,作話であることを窺わせる事情は特段認められない(なお,弁護人は,被告人が「幾日か前。」と答えた旨証言している点が,毛髪鑑定の結果と合致せず,合理性を欠くと主張するが,「敵を欺くには,味方からだから。」などという発言をしている人物がこの部分について嘘をつかないという保障はないのであって,被告人がなお虚言を交えて打ち明け話をしたということは十分にあり得ることといえるし,關が武が飲ませるのに加えて被告人の届ける薬剤をも飲んでいた形跡があることに照らしても,証言が合理性を欠くことはないといえる。)。

また,武が白い錠剤恐怖症になったという後も「つかれずバランス」を飲んだ点については,武の証言を子細にみると,「川村に「つかれず」と偽ってイブA錠を飲ませ始めてからは,容器も中身もとても似ているものは,たとえ本物と分かっていても飲めなくなり,それからは,色も形も違う「つかれずバランス」を飲むことにした」旨証言しているのであり,必ずしも錠剤の色自体が違うと証言しているわけではなく,関係証拠によって認められるように,体によいと聞いて,「つかれず」を通信販売で取り寄せて愛飲してきた武が,錠剤の色自体は同じ白色であるとしても,容器の色が異なり,大きさが一回り小さいことで,それほど抵抗感を覚えることなく「つかれずばらんす」を飲み続けたとしても,白い錠剤恐怖症に陥っていたという状態と全く矛盾するとまではいえない。

 

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