一審判決(抄)

 

四 佐藤の毛髪の鑑定結果

 

1 次に,佐藤の毛髪から検出された物質に関する弁護人の主張を検討するに,国立医薬品食品衛生研究所所属の厚生省技官中原作成の鑑定書及び捜査関係事項照会回答書並びに同人の当公判廷における証言によれば,中原は長く毛髪中の薬物の分析,研究を行い,数々の研究論文等を学会あるいは学術雑誌に発表してきている者であるが,平成12年8月11日に本庄警察署長から佐藤の頭毛約0.16グラムについて,その中にトリカブト草成分が含まれているか否かについての鑑定嘱託を受けて鑑定を行い,頭毛中にメサコニチンが含有されていることを認め,その頭毛が頭皮近くで採取された約1センチメートル前後のものであり,日本男性の頭毛の成長速度が通常1か月に1ないし1.4センチメートルであることなどに照らして,佐藤の頭毛から検出されたメサコニチンは死亡前約1か月の間に摂取されたものであるとの結論に達し,同年10月24日付けでその旨の鑑定書を作成したことが認められる。同鑑定書などによれば,この鑑定の経過及び結果に疑問を差し挟む余地はなく,その結論は十分に信用することができる。

2 これに対し,弁護人は,①中原が鑑定した頭毛が佐藤のそれであることが証明されておらず,他人の頭毛とすり替えられている疑いがある,②中原の鑑定書にはブランクテスト・データの結果についての記載がなく,鑑定の経過を記載したものとはいえない,③中原は水中死体の毛髪について鑑定をした経験がないから鑑定人としての適正を欠く,④一つの分析方法だけに依存して複数の分析方法を用いていないのは鑑定としての信頼性を著しく損なう,⑤国際的に検出限界以下とされている数値のメサコニチンしか検出されていないのにこれがあったとする判定は科学的とはいえない,⑥全量を消費し事後に検討する余地を残していないのは信頼性を損ねる,などと主張している。

しかし,①については,前記宮口・関根鑑定について述べたと同じく,齋藤証言,同人作成の任意提出書,領置調書,中原証言などにより,中原が鑑定の対象としたのは佐藤の頭毛であると認めることができ,これを疑うべき特段の事情を見出すことはできない。②についても,前記宮口・関根鑑定について述べたと同じく,その記載がないからといって,鑑定の経過を記載していないとはいえず,鑑定の信用性に影響を与えるものではない。③については,前記のとおり,中原は毛髪鑑定の専門家であり,その鑑定手法等に照らして,その毛髪がどのような死体のものであったかによって専門性の有無が別れるなどということは考え難い。④及び6については,複数の分析方法を用い,且つ,全量消費しない方が望ましいことは中原自身認めているところであるが,頭毛の量が僅少であったために,一つの分析方法で全量消費せざるを得なかったというのであるから,やむを得ないものとして是認することができ,鑑定の方法,経過等に照らしても,そのことから鑑定の信用性が左右されるものとはいえないことは明らかである。⑤について,中原証言によれば,一般的には,毛髪1ミリグラム当たり0.1ナノグラム以上の薬物の存在が認められたときに陽性とするとの申合わせがあるものの,例外として,非常に特殊な物質で,そのデータから見て,それ以下でも存在の判定ができるだけの十分な科学的根拠があって,しかも,その結果が,非常に重要なものであれば,例外として,その存在を指摘するかどうかは研究者の判断に任されていると認められるところ,メサコニチンは分子量が際だって大きい等の特質を有していてまさにその特殊例外的な物資に該当するというのであるから,弁護人の非難は当たらない。

3 また,弁護人は,死後頭毛が伸びることは通常考えられず,佐藤の頭毛から検出されたメサコニチンは佐藤が死亡した当日に摂取したものではあり得ないから,中原の鑑定結果は,武の殺害行為を裏付けるものではないと主張している。この点は,中原も,表皮よりも先の部分の毛髪から検出された物質というのは,少なくとも,3日間くらい前に,体内に摂取された物質と考えられる旨述べており,この点の弁護人の主張は首肯することができる。中原鑑定は,佐藤がその死亡した当日にトリカブトを摂取したことを裏付けるものとはいえず,せいぜい死の約1か月から3日くらい前にトリカブトを摂取したことを示すにとどまるといえる。

 

Ⅱ 偽装結婚事件

(略)

 

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