一審判決(抄)

一審判決(抄)
平成14年10月1日宣告 裁判所書記官 和栗秀嗣

平成12年(わ)第529号,第636号,第748号,第941号,第1888号,第1968号

判    決

本 籍  埼玉県本庄市日の出×丁目××××番地×

住 居  同市寿×丁目×番××号

金融業

八  木     茂

昭和25年1月10日生

上記の者に対する殺人,殺人未遂,詐欺,傷害,公正証書原本不実記載・同行使被告事件について,当裁判所は,検察官星景子,同佐久間佳枝,同高橋理恵出席の上審理し,次のとおり判決する。

主    文

被告人を死刑に処する。

理    由

【犯行に至る経緯と罪となるべき事実】

(略)

【証拠の標目】

(略)

【法令の適用】

(略)

【争点に対する当裁判所の判断】

弁護人は,判示罪となるべき事実の第1から第7の事実すべてにつき,多岐にわたる論拠を挙げて争い,同第1ないし第6の各事実については被告人が無罪である旨,同第7の事実については暴行罪が成立するにとどまる旨主張する。そこで,以下,それらの点に関する当裁判所の判断を示す。

 

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Ⅰ トリカブト事件

 

一 トリカブト事件(判示罪となるべき事実の第1及び第2の犯行)では,被告人が,事故の経営する飲食店のホステス等として雇い入れる前後から長期間にわたって情交関係を持ち,日ごろ愛人として親しく交際してきた武まゆみ,森田考子,アナリエ・サトウ・カワムラの3名の女性が,捜査段階の取調べにおいて,紆余曲折はあるものの最終的にはいずれも被告人とともに本件犯行を犯したことを自供し,各人それぞれの公判廷においても基本的にその供述を維持した結果,3名とも既に有罪判決を受けて,その刑が確定していることが認められるところ,この3名,殊に武の当公判廷における証言内容は,その一部に記憶が定かでない部分や曖昧な部分があるとはいえ,全体としてみれば,長い年月を経た以前の出来事であるにもかかわらず,極めて具体的且つ詳細で,迫真性に富んでおり,死亡した佐藤修一の臓器からトリカブト毒が検出された旨の鑑定結果や,武がトリカブトの採取場所として特定された美濃戸高原別荘地において現実にトリカブトが自生することが確認されたことなど,証言を裏付ける客観的な事実が存在するのである。それに,これら3名の証言する内容は,基本的な筋道においてよく合致しているばかりか,例えば,次のように,本件の骨格をなすとみられる重要な場面における一見極めて些細と思われる部分においても,相互によく符合している。すなわち,

1 前記【犯行に至る経緯と罪となるべき事実】の第二章の六の項で認定したとおり,被告人らは,平成7年6月1日,東秩父にある被告人の別荘で,佐藤殺害についての謀議を行ったが,その謀議内容等に関する武,森田,アナリエの当公判廷における各証言をみると,三名全員が,①被告人がアナリエに対し,佐藤の手術痕の位置を説明してこれを覚えておく必要があると発言した旨証言しており,また,武と森田が,②武とアナリエがニチイに買物に行き,アリバイのためにレシートをもらうことになっていたこと,③遺書は2通あるという話だった旨証言している。

このうち,①については,保険金を請求する前提として,戸籍上の妻であるアナリエが警察に被害者の捜索願を出す際,人相,着衣のみならず,その手術痕の位置を覚えておいて指導するなどということは,通常人が容易に思いつくような発想ではなく,このような面において被告人がいかに奸智に長けた用意周到な人物であるかを示す特徴的な出来事ということができ,また,②については,被告人が厳密な意味におけるアリバイとは異なる用法で「アリバイ」の語を用いる場合があることを示す,これまた特徴的なエピソードであり,さらに③についても,佐藤の遺書は実際には1通しか発見されていないにもかかわらず,このような点を踏まえて検討すると,この部分において先のように証言が一致していることは,実際に武らがこの謀議を体験したことを如実に示すものといえる。

2 佐藤殺害の状況は,前記【犯行に至る経緯と罪となるべき事実】の第二章の七の項で認定したとおりであるが,佐藤がトリカブト入りのあんパンを食べさせられた後,体の異常を訴え,嘔吐する気配を示した際,武は,被告人から洗面器を持ってくるように指示されたアナリエが,洗面器の意味が分からず,もたもたして何か違う物を持ってきたような記憶がある旨証言しているところ,アナリエも,「八木から「何とかメンキ」持ってきてと言われたが,意味が分からず,バスタオルを持っていったところ,八木から「それじゃねえんだよ。」と怒られた」旨証言している。殺害実行の緊迫した場面において,洗面器の意味が分からず,指示と異なる物(バスタオル)を持参したなどというのは極めて特徴的な出来事であって,このようなことを体験してもいないのに証言するということはおよそ考えられないことといえる。さらに,佐藤が動かなくなった後,被告人と武が渡辺荘を立ち去る際,被告人が,「死んでいる人間は怖くない,生きている人間の方がよっぽど怖い」旨の発言をしたという点についても,武とアナリエは一致して証言しているところ,この発言も極めて特徴的なものであって,空想の産物であるとは到底考え難い。

3 佐藤の死体を利根川に遺棄した状況は,前記【犯行に至る経緯と罪となるべき事実】の第二章の八の項で認定したとおりであるが,武とアナリエは,その際,アナリエが河原でつまずいたことや,利根川の川岸で佐藤の死体を被告人と武が長い棒(モップ)で突いて流したことを一致して証言しているところ,さらに,森田も,被告人らが戻ってきた後,アナリエがカウンターの中の椅子に座って足を拭きながら,「ターちゃん,足濡れちゃったからサンダル貸して。」と言ったことや,武がモップで佐藤の死体を突っついたら流れていった旨発言したとして,これと合致する証言をしている。これらも,それなりに特徴的な出来事であって,3名が3名とも,全く経験していないことを創作で証言したなどとは到底考えられない。

二 一方,被告人は,本件に関し,当公判廷において,次のように供述している。

1 佐藤の一か月の飲み代が60万円から80万円になるほどの状況であったため,佐藤に万一のことがあった場合にその回収に充てようと考え,佐藤が入金してくる30万円くらいの金を保険料に充てることにして,佐藤自身の了解も得た上,アナリエを受取人として3億円くらいの生命保険に入ったが,後日保険金が実際に支払われた場合に,飲み代との精算をどのように行うのかについては,受取人であるアナリエとの間で特別の取り決めはしていない。

2 その後,佐藤が気力をなくして,自殺をほのめかすようになったので,どうせなら早く死んでくれればいいのにと思っており,平成7年5月末ころには,タクシーで利根川に行ったりするのに金がないというような話をするので,今日にでもタクシーに乗ってほしいという思いで5000円を渡したこともある。武と二人で,佐藤が自殺するのは今日か明日かと毎日のように話し合っていたが,その過程では佐藤は泳ぎがうまいので,泳ぎづらくする方法などを話したこともある。

3 平成7年6月3日は,サンパレスから「レオ」に戻ると,武が出ていったが,しばらくして「レオ」に戻った武から「来てくれる。」と言われ,武について渡辺荘に行くと,佐藤が佐藤方ベランダの柱に背中を預け,魂を抜かれたようにボーッと座り込んでおり,武が「早く乗りなよ。」と言って佐藤を自動車に乗せた。武は,佐藤を乗せて再びどこかへ出かけていったが,自分は,そのとき,佐藤が飛び込んでくれればいいという気持ちでいた。その後,武が戻って,「坂東大橋の土手の所で降ろした。」と言うので,もしかしたら飛び込んだかもしれないと思って,武と二人で坂東大橋まで見に行ったが,佐藤の姿はどこにも見えなかった。

4 「レオ」を閉店した後,武,アナリエらと東秩父の別荘に行き,1泊した翌朝,牧場に行った帰り道に,車から降りて武と二人っきりになった際,佐藤を坂東大橋まで連れて行ったことはだれにも話すなと口止めした。

5 平成7年6月5日に佐藤の遺書が到着したので,警察に捜索願を出す傍ら,同月3日に佐藤を乗せたことがあるかどうか聞くため,タクシーの運転手などに聞き込みをしたり,佐藤の乗り捨てた自転車があるかもしれないと考えて,駅の自転車置場を探すなどした。同月9日には坂東大橋に飛び込んだ形跡が残されていないかと思って武やアナリエらと橋を見に行ったところ,欄干などに手や服,靴の跡などを見つけることができたので,やはり佐藤は坂東大橋から飛び込んだんだと思った。

この被告人の供述によると,被告人は,佐藤の飲み代の回収としては異常に高額と思われる3億円もの多額の生命保険に加入し,佐藤の死亡前においては,その保険金が手に入ると考えて佐藤が死亡するのを待ち望む日々を過ごし,また,渡辺荘で佐藤の姿が見られなくなってからは,武に対して口止めをしたり,武が坂東大橋まで送った際に佐藤が飛び込み自殺をしたのであれば,佐藤の行方を知るのにとりたてて意味のないこととなるタクシー運転手に対する聞き込みや自転車置場の捜索をしたりするなどの不審な言動が認められるのである。

三 これらの証拠を検討すると,被告人が本件を犯したのではないかと考えざるを得ない状況にあるといえるが,弁護人は,共犯者の証言,殊に武証言は,検察官による偽計,脅迫及び量刑を巡る約束に基づく極めて違法性の強い取調べによって得られたものであって,プランクトン検査の結果や,死後硬直に関する客観的証拠とも矛盾しているのであるから,証拠能力も信用性も認められないと主張するほか,その他の証拠についても,その証拠能力,信用性等に疑義がある旨主張するので,以下,それらの証拠に関し,弁護人が提起した主要な問題点に対する当裁判所の検討結果を示し,これを通じて,本件について被告人が有罪である理由をさらに説明することとする。

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