第14章 武は森田と川村に風邪薬をあげていたか

「白い錠剤恐怖症」?

 

これは事件の中身とは直接関係ない話だが、武の作話癖を典型的に示しているエピソードの一つである。
武は、白い錠剤である新ルル-A錠を「つかれず」と偽って川村や森田にあげるようになってから、彼女自身「白い錠剤恐怖症」になってしまい、同じく白い錠剤である「つかれず」を飲めなくなってしまった;だから色の違う「つかれずバランス」という錠剤を飲むようになったと証言した(第9回証言調書)。

前に、「十勝あんパン」の値段が高くてたまにしか使えなかったという作話に触れたことがあるが(第5章)、武はこうしたディテールを付け加えるのが得意である。しかし、それがかえって仇になるときがある。この話もそうだ。

武の自宅からは沢山の医薬品や健康食品が発見されている。その中に「つかれずバランス」はあった。いや正確に言えばそれは「つかれずバランス」の容器に入った白い小粒の錠剤である。本物のつかれずバランスは武が言うように白ではなく、褐色のつぶである。しかし、武の使っていた「つかれずバランス」の容器には白い小粒の錠剤――「つかれずホワイト」――が入っていたのである(写真14-1)。

写真14-1 武の自宅から発見された「つかれずバランス」

写真14-1 武の自宅から発見された「つかれずバランス」

 

要するに、武は森田や川村に新ルル-A錠をあげるようになった後も、自宅で白い小粒の「つかれずバランス」を愛用していたのだ。武は「白い錠剤恐怖症」の話でストーリーを脚色したつもりなのであろうが、その目論見は破綻した。

さいたま地裁の裁判官はこれについて、武は「錠剤の色自体は同じ白色であるとしても、容器の色が異なり、大きさが一回り小さいことで、それほど抵抗感を覚えることなく『つかれずバランス』を飲み続けたとしても、白い錠剤恐怖症に陥っていたという状態と全く矛盾するとまではいえない」と説明している。

多分こういうのを「強弁」とか「牽強付会」とか「苦し紛れ」というのだろう。武はわざわざ錠剤の色にこだわって「白い錠剤恐怖症」と言ったのである。彼女は「容器の色恐怖症」とは言っていない 。「錠剤の大きさ恐怖症」とも言っていない。そんな名前の恐怖症があるとも思えないが。

 

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