第14章 武は森田と川村に風邪薬をあげていたか

武の証言内容の不自然さ

 

武の証言には不自然な点をいくつも指摘できる。ここでもその主なものをあげる。


「つかれず」とイブの違いに気付かない川村


 

武は、「つかれず」にイブA錠を混ぜたものを飲ませたときも、イブA錠だけを10粒くらい飲ませたときも、川村はその違いに全く気付かなかった;川村に対して、「なめているととても酸っぱくなっちゃって、ひどいめに遭うんだよ」と忠告したので、それ以来川村は味わわないで飲むようになったからだ;などと証言した(第9回証言調書)。

さいたま地裁判決も、武証言に依拠して、川村がイブA錠の混入に気づかなかいことも「あり得る」とした。

しかし、「つかれず」は「酢の薬」と呼ばれるように、口に含んだ途端、強烈な酸味を感じる。「つかれず」はクエン酸粉末を固めた栄養剤で、容器に入れて少し動かしただけでも粉末がこぼれ、掌に錠剤をこぼせば粉末も手に乗るほどだ。それを10粒以上も口に含みながら、全く味を感じないで飲むことなど到底不可能である。しかも1回や2回だけのことではない。武の証言によれば、川村にはイブA錠を約3か月、新ルル-A錠に変えてからでも約約8か月もの間与えていたというのであるから、なおさらである。むしろ、川村が風邪薬を飲まされていることに気付かなかったのは、既に述べたように「つかれず・ホワイト」という本物の栄養剤を飲んでいたからだと考える方が、はるかに自然ではなかろうか。


「八木が自分に内緒で『つかれず』の容器にプレコールを入れていた」


 

武は、平成11年3月ころ、国友商亊の事務所で、八木が「分かったか?」と突然尋ね、実は「幾日か前」から「つかれず」の容器のなかにプレコールを混ぜていたと告げ、「敵を欺くには味方から」と言って得意になっていた;1月ころから瓶への薬の補充ができなくなったから、実際には1月ころから八木はプレコールをまぜていたと思うと証言している(第10回証言調書)。

このエピソードが武の作話であることは明らかだ。武はノートの平成12年5月12日の欄に「ルルの容器にプレコールが入っていたことについて」というタイトルで次のようなシナリオ風の文章と解説を書いている。

ある日に国友で八木さんと2人でいる時に、
八木「なあ、まみ、わかった?」
私 「なにが?」
八木「わからなかったか」
私 「だからなにが?」
八木「まみがわかんなければ大丈夫だ。あの「す」の中にさ、プレコールをまぜといたんだ。似てるから、わかんないだろう」
私 「えっ、いつの間に?」
八木「もう何日か前。まみがわからなければ、やつらにもわからないだろう」
私 「なんで」
八木「まあ、いいから」
とこんな具合の話で、私は、ルルの中にプレコールがまざっていたことを知った。その後も、川村と関には、そのまま、ルルをあげていた。
ただ、八木さんが、いつからプレコールをまぜていたのか、なんのためにしていたのかは、私にはわからない。
このことから言えることが1つある。それは、関の髪の毛から出ているプレコールの成分は、どうしてかという理由が、説明がつくのだ。私があげていたルルの中にプレコールがまざっていたために、関も、プレコールを飲んでいたということになる。
私は、いつからかは知らなくても、この話を八木さんから聞いたあとも、川村・関に、そのまま、ルルをあげていた。だから、ルルの中にプレコールが入っていたのを知ってからもあげていたということだ。

 

武がある会話の断片を思いつき、それに推測や類推を交えた解説を施すという記載スタイルは、渡辺荘事件の「記憶」を一生懸命追い求めていたころのノートの記載と全く同じである。上の記載からは、武が捜査官から、森田昭の毛髪からプレコール持続性錠の成分(イソプロピルアンチピリン)が検出されたことを示され、その理由の説明を求められていたことが明らかである。

武は、平成12年3月3日付で作成された森田の毛髪鑑定の結果を示され、その説明を求められて、このストーリーを「思い出した」。そして平成12年5月11日、彼女は検察官に対し、「平成10年のうちに、ルルとプレコールが混ざっていた可能性もあります」と話した(H12/5/11弁解録取書)。この供述が、佐久間検事が森田の毛髪鑑定 に基づいて、武を誘導した結果であることは明らかであろう。

しかし、八木が武に内緒でプレコール持続性錠を容器に入れ始めた時期を「平成11年1月ころ」とした証言には無理があった。ノートに「いつからプレコールをまぜていたのか***私にはわからない」と書いたことと食い違うほか、武が「思い出した」八木との会話は平成11年3月の話であり、八木はその「幾日か前」にプレコール持続性錠を混ぜたと説明したことになっているからである。

だが、さいたま地裁判決は、

弁護人は、被告人が「幾日か前。」と答えた旨証言している点が、毛髪鑑定の結果と合致せず、合理性を欠くと主張するが、「敵を欺くには、味方からだから。」などという発言をしている人物がこの部分について嘘をつかないという保障はないのであって、被告人がなお虚言を交えて打ち明け話をしたということは十分にあり得ることといえる。

 

と言って武証言を救済した。そもそも「敵を欺くには味方から」というエピソード自体が武の作話の可能性があるとわれわれは言っているのである。裁判官はわれわれの疑問に全然答えずに、八木をこのような発言をする人物と決め付けている。

いずれにしても、八木が武にプレコール持続性錠を混ぜたことを打ち明けたというストーリーの中で、八木が時期の点についてだけ武にわざわざ嘘をいう理由はないだろう。もっともこうした反論もこの裁判官にかかれば「十分にあり得る」の一言で片付けられてしまうのかもしれないが。

 

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