第14章 武は森田と川村に風邪薬をあげていたか

投与量と入手量の不一致(薬店関係者の証言との矛盾)

 

武は、森田と川村に与えていた風邪薬は「八木さんが買ってきていました」と証言する(第9回証言調書)。そして、さいたま地裁判決は、八木がサンエスドラッグ日の出店やベスト花園薬局花園店で「平成10年秋ころから同11年春ころにかけて、相当量の総合感冒薬等の薬剤を購入したことが認められる。」とした。

この点について、八木は、第1回公判で「薬を買って来てくれと頼まれ、関昭さん宅に痛み止めとカゼ薬は[ママ]、5~6回持っていったことは有り、1回に4~5箱で、8箱を1回で持って行ったことも有ります」と話した。また第87回公判においても、裁判官の質問に同様に答え、花園薬局やサンエスドラッグで、痛み止めやカゼ薬をまとめ買いして森田昭に届けたことを認めている。

一方、ベスト花園薬局の店長荒井邦男は、八木が平成10年秋口から平成11年春頃まで、新ルル-A錠110錠入りやブルファニック、プレコール持続性錠等を一度に3個以上まとめ買いしていったが、そのような人物は八木だけであったと証言した。

また、サンエスドラッグ日の出店店長長谷川裕之も、八木は、平成10年10月から平成11年5月までの間、「1箇月に1回、あるいは、2箇月に3回くらい」の割合で来店し、3、4回、プレコール持続性錠27錠入りを2個以上買っていった;イブA錠も一度に2、3個買っていった;そしてプレコール持続性錠を一度に2個以上買っていった客は八木1人しかいない;と証言した。

まず、風邪薬を一度にまとめ買いした人物が八木しかいないという2人の証言を、そのまま信用することはできない。

荒井は、風邪薬をまとめ買いした人物の特徴について、法廷での証言と捜査段階での供述が食い違っているほか、平成11年7月頃から盛んに放映されたこの事件に関するテレビなどを見て八木を見知っていたうえ、NHKの記者が八木の写真を持って訪ねてきたり、警察からも八木の写真を何度も見せられていた。風邪薬をまとめ買いしたのは八木だという先入観が既に出来上がっていた可能性が高い。

しかも、一部のレジペーパーを見ただけでも、森田が死亡し、川村が警察に保護されたよりも後の平成11年12月にイブA錠を2個、3個とまとめ買いした客の記録があり、風邪薬を一度に3個以上まとめ買いする人物が別にいたことが明らかなのである。

さらに言えば、ベスト花園薬局で購入された錠剤がマミーに届けられたという裏付けもない。荒井はプレコール、ブルファニック、イブA錠にはベスト花園薬局特有の色つきの値段表を貼ってあると証言したが、マミーから押収された未開封のプレコール持続性錠には色つきの値札は貼られていなかった。

長谷川も、風邪薬をまとめ買いした人物が八木であるとしたことについては荒井と同様の問題があるほか、レジペーパーも残されていないため、まとめ買いの事実は客観的に確認のしようがない。

したがって、この2つの薬局で風邪薬をまとめ買いした人物がいたとしても、その全てが八木とは限らないのである。このように、ベスト花園薬局店長やサンエスドラッグ日の出店店長の証言の全てを信用することはできないが、仮にそれらの証言を前提としても、武の証言と矛盾する結果となる。

武は、イブA錠を川村や森田に与えていたのは平成10年7月から10月までであり、同年10月中には新ルルAに切り換わっており、それ以降イブを与えた事実はない(第9回証言調書);そして平成11年1月ころからは、川村と森田に新ルルAにプレコールが若干量含まれた錠剤を与えた(第10回証言調書);と証言した。それをまとめると次の表のとおりとなる。

表14-4

 

 

 

 

ベスト花園薬局で八木がまとめ買いしたという薬の中には、武が「あげた」と証言していない「ブルファニック」が大量に含まれていたり、武がイブA錠を与えるのをやめた平成10年10月以降にイブA錠が大量に買われている。さらに、武によれば同年10月から新ルルAを与えたはずであるのに、新ルル-A錠の購入は12月以前には全くない。武の証言が正しいとすると、荒井が証言する人物は八木ではないということになり、逆に、荒井の言うとおりだとすると、武の証言は虚偽だということになる。

そして、八木が花園薬局やサンエスドラッグで購入した薬の量は、武が森田や川村に飲ませたという薬の量にも満たない。まして、八木がその一部を独自に森田に渡していたことを考えると、数が圧倒的に不足する。

八木の供述では4~5箱を5、6回というのであり、1箱100錠としても、その総数は2000から3000である。武証言によれば、次の式のとおり、少なくとも10、645錠の錠剤が必要である。

  • 川村 (10×31)+(20×302)+(5×149)=7095
  • 森田 (10×31)+(15×212)+(15×4)=3550

ちなみに、荒井や長谷川が八木が買ったと名指しする薬剤の総数を計算すると、次のとおり最大に見積もっても6、578個であり、武の証言する個数には到底及ばない。

  • 荒井(花園薬局) 5458個
  • 長谷川(サンエスドラッグ) 522~1118個

 

したがって、八木が買ってきた風邪薬を森田と川村にあげていたという武の証言は破綻してしまっている。
ところが、さいたま地裁判決は、「被告人が『サンエスドラッグ日の出店』と『ベスト花園薬局花園店』以外の薬剤店においても薬剤を購入している可能性は十分にあり得るところであり、購入した薬剤の種類もこれらの薬局で購入したものだけにとどまらない可能性がある」とした。

裁判というのは証拠によって事実を推論するべきものである。証拠に基づかない憶測で、人を有罪にすることはできないはずである。しかし、さいたま地裁の裁判官はこの超えてはならない一線を超えてしまった。八木がこの2店舗以外からも風邪薬を買っていたことを窺わせるような証拠はこの裁判では全然提出されていない。警察は埼玉県内はもとより群馬県の一部にまで捜査員を派遣して風邪薬を大量に購入した客を虱潰しに調査しているはずである。その調査結果が証拠として提出されていないのは、八木が他の薬剤店で風邪薬を購入したという情報を得られなかったからである。マスコミも警察の先回りをして探偵まがいの調査をしていた。それにもかかわらず薬の購入先が見つからなかったということは、八木がこの2店舗以外から薬を購入した事実などないことを物語っているのである。

 

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