第14章 武は森田と川村に風邪薬をあげていたか

毛髪鑑定との矛盾

 

先に見たとおり、中原が行なった毛髪鑑定の結果から風邪薬の過量長期連用を推定することはできない。しかし、逆に、仮に毛髪鑑定の結果が正しいとすると、それは2つの点で武の証言と相矛盾することになる。


毛髪中のアセトアミノフェン濃度の異常な差


 

中原鑑定によると、毛髪から検出されたアセトアミノフェン濃度は、森田10.58ng/㎎、川村0.2ng/㎎であり、その差は約53倍に達する。

一方、武は、

  • ①森田に対しては、平成10年10月から平成11年3月まで(182日間)は毎日新ルル-Aを約15錠あげていたが、同年4月は中旬までに3、4回新ルル-Aを約15錠あげ、その後はあげていない;
  • ②川村に対しては、平成10年10月から平成11年5月29日まで(241日間)は毎日ルルを約20錠、平成11年1月から5月29日まで(149日間)はこれに加えてプレコール持続性錠を3~5錠与えていた

と証言した(武第11回証言調書)。

新ルル-A1錠中には100mg、プレコール持続性錠1錠中には75mgのアセトアミノフェンが含まれているから、武が川村と森田に与えていたと言うアセトアミノフェンの総量は、

川村 (100×20×241)+(75×5×149)=537、875㎎
森田 (100×15×182)+(100×15×4)=279、000㎎

となり、毛髪中のアセトアミノフェン濃度が低い川村の方が森田の約2倍のアセトアミノフェンを摂取したことになる。これは中原鑑定の結果と決定的に矛盾する。

さいたま地裁判決は、薬物の吸収割合や毛髪への移行割合に個人差があり、川村は服用後すぐに嘔吐したのに対し、森田は嘔吐しなかったので、その分森田の方が多量に体内に吸収されたのだとした。
しかし、川村が服用後よく嘔吐するようになったのは平成11年2月、3月と述べている(川村第58回証言調書)。53倍もの濃度差の説明にはなっていない。


薬の種類、使用時期との不一致


 

武証言と中原鑑定との矛盾はもう一つある。仮に中原鑑定から推定される各薬物の使用時期を前提とすると、武が2人に与えた薬の種類とその期間とは一致しないのだ。武は森田昭に風邪薬を与えた状況について、次のように証言した。

  • ①平成10年8月1日から同月終わりころまでイブA錠を与えていたが、その後イブA錠は止め、新ルル-A錠を与えるようになった(第9回証言調書)。
  • ②平成10年8月終わりころから平成11年3月末までは毎日のように新ルル-A錠を20錠与えていたが、4月以降は同月中旬までに3、4回しか与えていない(第11回証言調書)。
  • ③森田にプレコールを与えたことはなく、ただ平成11年3月ころに八木から新ルル-A錠の中にプレコール持続性錠が混ざっていることを知らされ、多分同年1月ころから混ざっていたのではないかと思う(第10回証言調書)。

これに対して、森田昭の毛髪鑑定によると、

  • ①平成10年11月から平成11年5月下旬の分画にイソプロピルアンチピリンを検出
  • ②平成11年1月から5月下旬の分画にイブプロフェンを検出
  • ③平成11年4月後半から5月中旬の分画から19.6ng/㎎のアセトアミノフェンを検出
  • ④平成11年5月中旬から同月下旬の分画から7.1ng/㎎のアセトアミノフェンを検出

という。
そうすると、

①武が森田にプレコール持続性錠を与えていない平成10年11月、12月の分画や平成11年5月の分画から、プレコール持続性錠のみに含まれるイソプロピルアンチピリンが検出されたこと

②武が森田昭にイブA錠を与えていない平成11年1月から同年5月下旬の分画からイブプロフェンが検出されたこと

③武は森田昭に新ルル-Aを平成11年4月以降は中旬までに3、4回与えただけだというのに、同年4月後半から5月中旬の分画から19.6ng/㎎(川村の98倍の濃度)のアセトアミノフェンが検出され、同年5月中旬から同月下旬の分画から7.1ng/㎎(川村の35.5倍の濃度)のアセトアミノフェンが検出されたこと

はいずれも武の証言と明らかに相反する。

武は、川村に対して、プレコール持続性錠は平成11年1月から5月29日まで3~5錠を与えていたと証言した。しかし、毛髪鑑定の結果、川村の毛髪からは平成10年12月の分画からプレコール持続性錠の成分であるイソプロピルアンチピリンが検出されたというのであり、やはり武証言と矛盾している。

以上をまとめたのが表14-3である。

表14-3

 

しかし、さいたま地裁判決は、この武証言と毛髪鑑定の矛盾について、武とは別に八木が風邪薬をまとめ買いして、森田昭に届けたり、プレコール持続性錠を新ルル-A錠に混ぜたりしていたと言い、だから、不一致があったとしてもおかしくないと言う。
そこで続いて、八木の風邪薬の購入について検討してみることにしよう。

 

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