第12章 1日25錠の風邪薬を毎日飲んだら人は死ぬか

殺人行為

 

判決は、八木らには、森田昭に対する殺人罪、川村富士美に対する殺人未遂罪が成立するのだと言う。殺人罪、あるいは、殺人未遂罪が成立するためには、当然のことながら「殺人行為」がなければならない。判決によると、森田昭や川村に対する「殺人行為」は、「反復継続してアセトアミノフェン等を含有する総合感冒薬等及び高濃度のアルコールを含有する飲料を多量に嚥下、飲用させ」たことである。要するに、風邪薬や酒を連日、多量に飲ませる行為が殺人行為だと言うのである。

言うまでもないが、ある行為が「殺人行為」と言えるためには、その行為は、人が死ぬ危険のある行為でなければならない。例えば、包丁で人の心臓を刺せば、刺された人はほぼ間違いなく死んでしまうだろう。だから、包丁で人の心臓を刺すという行為は、「殺人行為」と言える。これについては、異論がないだろう。これに対して、風邪薬や酒を連日、多量に飲ませるという行為はどうだろうか。ここで言う風邪薬とは、市販の総合感冒薬であり、どこの薬局でも売っているし、医師の処方箋がなくても誰でも買える物である。同様に、ここで言う酒についても、焼酎などのどこでも売っているし、誰でも買える酒である。「これを飲んだら死んでしまうかもしれないけど、とにかく風邪を治さなければならないので、仕方がない」と思って、命がけで風邪薬を飲む人はいないだろう。また、ごくまれに「酒さえ飲めれば死んでもかまわない。」と言う人がいるが、その人も、本気で酒を飲んで死んでしまうなどと思っているわけではないだろう。ごく普通の感覚からすると、風邪薬を飲むことや酒を飲むことと人の死ということとは、すぐには結びつかない。だから、風邪薬や酒を飲ませる行為が「殺人行為」だと言われてもピンとこない。

もっとも、これが、連日、あるいは、多量ということになると、いかにも体には悪そうである。科学的に見ても、体には悪いのだろう。しかし、単に体に悪いというだけでなく、さらに一歩進んで、それが直ちに人の死につながるものなのかというと、それもまたピンとこない。科学的にはどうなのだろうか。連日、多量の風邪薬や酒を飲ませる行為が「殺人行為」であると言う以上は、そのような行為が科学的に見て人が死ぬ危険のある行為であると言えなければならないはずである。この裁判では、その点が科学的に証明されたのだろうか。

 

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