第11章 川村富士美の「症状」

川村の「症状」の原因は風邪薬ではない

 

すでに述べたとおり、川村には、「急性肝障害」、「好中球の減少による抵抗力低下」などの「傷害」は発生していない。ところが、判決は、「急性肝障害」、「好中球の減少による抵抗力低下」は明らかであると言い、いずれも薬物性、つまり風邪薬が原因と見るのが合理的であると言う。判決がそのように言う根拠は、やはり、北村証言である。

しかし、これについての北村証言は、不合理なところが多い。そこで、ここでは、北村証言の不合理な点を指摘し、仮に判決の言うとおり、川村に「急性肝障害」、「好中球の減少による抵抗力低下」があったとしても、その原因が風邪薬であると考えるのはおかしいということを説明する。

判決が、薬物性の急性肝障害と考えた理由は、ひと言で言うと、北村がそう証言したからである。北村の証言を何ら検証することなく、受け入れている。では、北村がなぜそう判断したかというと、それは、入院前後の川村のGOT、GPT、LDH、γGTPの数値のレベルやそれぞれの数値の変動状況、さらには、それらが特別の治療もなく基準値内に戻っていることなどからである。

北村は、「約3週間程度の期間で特別の治療もなく数値が基準値内に戻っている」から、原因は薬物性だと言う。要するに、入院中に特別に治療することもなく、単に薬物を与えなくなっただけで数値が基準値内に戻ったのだから、薬物が原因だったのだろう、ということである。しかし、これは、素人的に考えても明らかにおかしな話である。川村は、入院中、風邪薬を摂取していないのはそのとおりだが、当然のことながら、アルコールも摂取していない。アルコールが原因の肝障害であれば、アルコールを断てば、数値は改善する(沖田1994、p233)。原因がアルコールであるということも十分に考えられるはずである。これに対して、北村は、アルコール性肝障害の場合は、GOT、GPTよりも先にγ-GTPが劇的に下がるはずだが、川村の場合はそうではないから、アルコール性ではないと言う。しかし、アルコール性肝障害の診断方法としてそのようなことを記述している教科書はない(沖田1994、リーバー1985)。さらに、実際に川村のGOT、GPT、γ-GTPの数値を見ても、その改善のあり方を云々することができるとは思えない。川村の数値の変化は、次のとおりである。

 

この表からも明らかだが、GOTもGPTも入院後直線的に下降線をたどっているわけではない。どちらの数値も、入院5日目(6月3日)に一旦上昇し、退院直前まで(退院したのは6月19日)入院時(5月30日)よりも悪い数字を維持している。これは、入院後に処方された薬剤の影響によるものと推測される 。そして、γ-GTPについて言えば、入院時(5月30日)のデータがないのである。仮に5月30日の数値が31日の数値の数倍(例えば、300)であったとすると、入院によって劇的に数値が改善し、その後に処方された薬剤によってGOTやGPTと同様に悪化したものの、その薬剤の投与を止めた後に数値が改善して、退院時には、基準値近くにまで下がったという説明が十分可能なのである。北村は、GOTとGPTの推移から推測して、「[5月31日のγ-GTPの数値である]136の前は、普通は140とか150程度じゃないですか」などと証言するが(第74回証言調書)、これは、何の根拠もない推測にすぎない。要するに、北村は、初めからGOTやGPTと同じような割合でγ-GTPも推移しているはずだと決めてかかっているだけなのである。最初から「劇的に下がるはずはない」と決めてかかった上で、「劇的に下がっていない」と判断しているのである。これではもはや科学者の態度ではない。

同様に、判決が、薬物の影響により好中球の減少を来たしたと考える理由も、北村がそう証言したからである。判決は、「[北村証言によると] 川村の身体状況や10日間程度の入院で特別の治療もなく白血球の数値などが平常値に戻っていることなどに照らすと、その原因は薬物性とみるのが合理的である」などと言う。もうおわかりだろうと思うが、川村は、入院中に風邪薬を飲んでいないというだけでなく、アルコールも飲んでいない。そして、アルコールが白血球に悪影響を与えることは、医学的には常識であるから(リーバー1985)、アルコールをやめたことによって、白血球の数値などが平常値に戻った、つまり、原因はアルコールだったと考えることも十分に可能なのである。

以上のとおり、仮に、川村に「急性肝障害」、「好中球の減少による抵抗力低下」があったとしても、その原因が風邪薬にあると考えるのは、あまりにおかしすぎるということがわかっていただけたと思う。

最後にもうひとつ。判決が認定した罪となるべき事実(犯罪事実のこと)では、風邪薬だけでなく、高濃度のアルコールを飲ませたことによって、川村に、急性肝障害、好中球等の減少による抵抗力低下等の傷害を負わせたということになっている。裁判所の立場に立ったとして、風邪薬が原因だということは、北村証言で裏付けられると考えたとしても(北村証言が、全く信用に値しないことはすでに述べたとおりだが)、アルコールも原因だというのは、何をもって裏付けるのだろうか。川村の「症状」について、風邪薬だけではなく、風邪薬+アルコールが原因だという証拠は、この裁判には現れていない。むしろ、裁判所がその権威を頼りにしている北村でさえ、川村の「症状」については、アルコール性を完全に否定しているのである。判決は、理由なしに八木の有罪を認めたことになる。

 

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