第11章 川村富士美の「症状」

川村に「急性肝障害」や「好中球の減少による抵抗力低下」などなかった

 

以上述べたとおり、主に高橋の証言を検討すれば、当時の川村には、「急性肝障害」、「好中球の減少による抵抗力低下」などという症状がなかったことが明らかになる。ところが、判決は、高橋の証言を完全に無視した。実際に川村を診察した高橋の証言にはひと言も触れずに、川村の血液検査のデータを見て、川村の病状を推測しただけの北村の回答書や証言だけを見て、川村には「急性肝障害」、「好中球の減少による抵抗力低下」という「傷害」があったと決めつけたのである。しかも、判決は、高橋の証言を無視した理由について何も述べていない。判決が、高橋を無視して、北村だけに頼った理由は、2つ考えられる。ひとつは、最初から八木を有罪と決めてかかっている裁判所にとって、川村の好中球減少など全く気にも留めていないような高橋の証言は、あまりに都合が悪すぎたからである。もうひとつは、北村には、「東京大学助教授で血液学、臨床判断学の研究者」という肩書きがあるのに対し、高橋は、深谷赤十字病院の勤務医にすぎないからである。「権威」があれば、中身が空っぽでも信頼してしまうというのが、この裁判所の悲しいところである。これら2つの理由は、一見すると突飛なものに思えるかもしれないが、当時の川村の症状を医師として把握している唯一の人物である高橋の証言を、何の説明もなしに無視しているのだから、この2つの理由くらいしか思い当たるものはない。

以上、川村に「急性肝障害」、「好中球の減少による抵抗力低下」などの「傷害」がなかったということを述べたが、これは、何を意味することになるのだろうか。川村にこのような「傷害」など生じていなかったということは、そもそも、そのような「傷害」を生じさせる危険のある行為自体が存在しなかったことを強く推測させる。この事件では、そのような危険のある行為として疑われてきたのは、風邪薬を与える行為である。したがって、川村に何ら「傷害」が生じていないということは、何者かが川村に風邪薬を与えたという事実が存在しなかったか、あるいは、仮に風邪薬を与えるという行為が存在したとしても、その行為には、人を殺傷する危険などなかったということを強く推測させるのである。つまり、川村に「傷害」が生じていないということは、八木らの無罪を強く推測させるという意味があるのである。

 

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