第3章 武まゆみの証言と記憶

偽りの記憶を作る

 

実際には存在しない架空の体験を「記憶」に留めてしまうことがありえるということも最近の心理学の実験で確かめられている。

エリザベス・ロフタスは、18歳から53歳の被験者24人に対して、幼児のころに実際に起った体験3つに1つの架空の体験(ショッピングモールで迷子になった)を加えて、それらを思い出すように告げたところ、最初の面接で7人(29%)が架空の体験を「思い出し」、2度目の面接で6人がその事実を「覚えている」と主張したという実験を報告している。

ハイマンらは、同様の実験で、幼児のころに高熱と耳の感染症の疑いで入院したという架空の体験を思い出させたり、結婚式のパーティで花嫁の両親にパンチボウルをひっかけたという架空の出来事を思い出させた。

スパノスは、記憶の形成が不可能な1歳未満のころの記憶を被験者に「想起」させる実験を行った。

カッシンは、実験の参加者がキーの操作を間違えたためにコンピューターが壊れたという偽りの告発を行ない、最初は無実を主張していた被験者が、「私もその行為を見た」という「さくら」の登場によって、虚偽の犯行を自白したうえ、詳細なディテールまで作り出したことを報告している(ロフタス1997)。

これらの研究結果を踏まえて、ロフタスは、「それほど複雑でもない手続きによって多くの人々が誘導され、複雑で鮮やかで細部まではっきりした偽りの記憶を構成してしまう」と結論している。彼女はこのような偽りの記憶が形成される要因を次の4つにまとめている(同前p24)。

  1.  思い出すようにという社会的な圧力
  2.  出来事のイメージを思い浮かべるように勧められること
  3.  構成された記憶が真か偽かをあえて考えないように奨励されること
  4.  実際にそのような出来事があったと他者が補強証拠を与えること

そして、このようなプロセスで虚偽の記憶が作られるメカニズムの説明として「情報源の混乱」(「ソースモニタリングの誤り」)を指摘する。例えば、被験者にある出来事をイメージするように勧めることで、それが単なるイメージではなく、実際に体験した出来事であると誤認する可能性が高まるのである(同前p23)。

仲真紀子は、スーパーでアルバイトをしている被験者の行動を記録しておき、その後の面接で、被験者が実際には体験していない出来事を詳細に「想起」することを報告している(仲1996;仲1998)。
仲も誘導情報や想像が実際の体験と混同してしまう「ソースモニタリングの誤り」の重要性を指摘している。
仲は、これまでに公刊された研究や自らの研究結果を踏まえて、偽りの記憶が形成される要因として、ロフタスが挙げる上記の4つのほかに、

5. 絶対に起ったはずであるという信念
そして、
6. 「想起」することが安全で信頼できる雰囲気
を指摘している(仲第84回証言調書、仲鑑定書)。

これらの要因は同時並列的に作用するのではなく、例えば、初期の段階では、ある出来事に関連する時期や場所についてなんでもいいから思い出すように、それが本当かどうかは気にしないで思いつたことを何でも話すように励ます(3,6);そうして語られた話のなかから、セラピストなり尋問者が想定する出来事に見合うものに意識を集中させ、それを思い出すようにと圧力をかけたり、「それを見た人がいる」などと補強証拠を与える(1,4);そして、話し始められた場面をイメージして細部を語るように仕向ける(2)、というように、「想起」の時系列的な局面に応じて作用していくのである(仲第84回証言調書)。

 

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