第1章 溺死

・プランクトンの形態学

 

今度はミクロの世界から汚染の問題を検討してみよう。

腎臓から検出されたプランクトンが肺や体表面にあったものによる「汚染」であるとすれば、肺から検出されたプランクトンの構成と、腎臓から検出されたそれとは類似しているはずである[6]。また、確率論から言っても、肺から最も多量に検出されたプランクトンが腎臓からも検出されていなければおかしい。南雲鑑定書には肺や腎臓から検出されたプランクトンの一覧表とその顕微鏡写真が載っている。それをみれば、肺から検出されたプランクトンの構成と腎臓から検出されたそれとが大きく異なっていることは一目瞭然である。まず、肺の外側部分と比べてみると、腎臓から検出された3種類の珪藻類(写真1‐3 Figs. 2,3,6,7,10,11,22)のうち、2種類は肺の外側部分からは1つも検出されていない。

検出された珪藻

写真1-3:佐藤氏の臓器等から検出されたプランクトン

 

そして、肺の外側部分からもっとも多量に検出された珪藻(Synedra inaequalis――Figs. 19,20)は腎臓からは全く検出されていない。

肺全体と比べると、肺からもっとも多量に検出された珪藻のうち第1位から第4位までのもの(Figs. 8,9,14,15,16,17,18)は腎臓からは一つも検出されていない。腎臓から検出された3種類の珪藻は、肺から検出された量の順位でいうと、第5位、第6位及び第8位のものである。そして、肺の内側部分と対比すると、同じく第1位から第4位のものは腎臓からは一つも検出されず、腎臓から検出されているのは第5位、第7位と第16位(最下位)のものである。このように、肺から検出されている珪藻類の構成と腎臓から検出されたものとの間にまったく相関関係が認められないのである(表1-3)。

表1-3 佐藤の肺と腎臓から検出された珪藻の個体数
珪藻の種別 肺内側(2.39g) 腎臓内側(10.43g)
強汚濁耐性種
Gopmhonema parvulum 440
Nitzchia palea 200 10
中汚濁耐性種
Cyclotella cryptica 40
Cyclotella meneghiniana 160
Fragilaria vaucheriae=Ceratoneis vaucheriae 200
Gomphonema pseudoaugur 120
Navicula gregaria 40
Navicula pupula=Scheraphola pupula 200
Nitzschia amphibia 120 10
Nitzschia frustrum 40
Nitzschia hantzschiana 40
Nitzschia sinuata var. delognei 80
Synedra ulna 40
弱汚濁耐性種
Achnanthes convergens 280 5
Achnanthes lanceolata 120
Cocconeis placentula 40
Cymbella cistula 80
Cymbella minuta=Cymbella ventricosa 560
Cymbella sinuata=Reimeria sinuata 40
Gomphonema quadripumctatum 80
Hannaea arcus=Ceratoneis arcus 400
Hannaea arcus var. recta 40
Navicula lanceolata 40
Nitzschia romana 640
Rhoicosphenia abbreviata 80
Synedra inaequalis 240
総数 4360 25

 

 

そして、さらに決定的なことは、腎臓から検出されたプランクトンはいずれも小型のものあるいは長さは中程度であるが幅が非常に小さいものばかりであることである。南雲鑑定書に添付された鏡顕写真をみると、腎臓から検出された種(Figs 2、3、6、7、10、11、22)は、いずれも長さ10μ足らずの米粒のような形のものか、幅6μ長さ35μほどの細長い紡錘状のものであり、大型のものや形が偏平なもの(Figs 16、 17、 18、 27、 32)はまったくみられないのである(写真1-3:再掲)。

検出された珪藻

 

先に指摘したように、肺胞壁を通過して大循環に乗ることができる珪藻類には限界があり、新沢らの論文が指摘するように(新沢1957 p321)、肺以外の臓器に侵入する珪藻の多くは小円形細胞又は細胞に突起のないものに限られることが知られている。本件のデータは、まさにこれらの研究結果と一致するものである。

すなわち、佐藤修一の腎臓から検出された珪藻類は、肺や体表面に付着したものが紛れ込んだのではなく、佐藤修一が利根川の水と一緒に肺の中に吸い込み、彼の肺胞膜を通過して血液とともに彼の腎臓に運ばれたものに他ならないのである。要するに、佐藤は利根川で溺死したのである。

 

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