第1章 溺死

5 判決

 

これまで検討したことの要点をここで整理しておこう。

佐藤の遺体を解剖した齋藤教授は、解剖した当時には死因を溺死と判断していた可能性が高い。当時の捜査報告書には「解剖の結果溺死と判明」と書いてあり、行田警察が齋藤教授の判断なしに死因を断定したとは考えられない。

「溺死ではない」という上野医師の回答書は、佐藤の死体が死後2週間経過し高度に腐敗の進んだ死体であることを忘れて、新鮮な溺死体に典型的に見られる所見がないことや、溺死診断の基準として役に立たない独自の基準を根拠に溺死を否定しただけであり、まったく証拠価値がない。

そして、佐藤の肺から1g当り2006個・腎臓から1g当り2.39個の、利根川に棲息する特異な珪藻類が検出されたというプランクトン検査結果は、資料の汚染の結果とは考えられず、佐藤が利根川で溺死したことを示す決定的な証拠である。

さいたま地裁第2刑事部は、われわれの検討結果のほとんど全てを否定した。佐藤の死因は、溺死ではなく、アコニチン系アルカロイド中毒すなわちトリカブト毒によるものであったと認定したのである。裁判官たちはどのような証拠と論理でその結論を導いたのだろうか。

 

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