平成27年2月5日、意見書を提出しました。

弁護団は、平成27年2月5日付けで、東京高等裁判所に対し、再審を開始すると同時に、八木茂さんに対する死刑と拘置の執行を停止するとの決定を求める意見書を提出し、八木茂さんの即時釈放を求めました。 弁護団の意見の理由は、次のとおりです。

(目次)

1. 大野教授の鑑定書が、佐藤さんの死因が溺死であることを明らかにしており、刑事訴訟法の定める「無罪を言い渡(す)べき明らかな証拠」である。
(1) 大野鑑定書の内容
(2) 即時抗告審(東京高裁)に提出した中嶋鑑定書
(3) 即時抗告審で採用された裁判所鑑定
2. プッテン殺人事件ほかを分析した論文ほかは、武、森田及びアナリエの証言が偽りの記憶であることを明らかにしており、刑事訴訟法の定める「無罪を言い渡(す)べき明らかな証拠」である。
(1) 佐藤さんの死因が溺死であることと武証言
(2) プッテン殺人事件ほか、刑事事件で偽りの記憶が問題となった事例についての論文
(3) 森田考子の供述調書
(4) アナリエ証言も偽りの記憶である

(主な内容)

1. 大野教授の鑑定書が、佐藤さんの死因が溺死であることを明らかにしており、刑事訴訟法の定める「無罪を言い渡(す)べき明らかな証拠」である。

(1) 大野鑑定書の内容

確定第一審の証拠により、佐藤さんの肺の内側2.39gに、4360個の珪藻が含まれていたことが明らかになっている。 これは、大量の河川水を生前に吸引したことの表われである。 2.39gに対し4360個の珪藻が含まれていたと数字は、解剖や検査の過程で汚染した(コンタミネーション。確定審や再審請求審がプランクトン鑑定の信用性を否定する根拠の1つである。)という理由では説明が付かない。

即時抗告審での大野教授の追加意見。

再審請求審(さいたま地裁)が、死亡した猫を用いた実験において水が死亡した猫の肺に入ったから、死亡した人間の肺にも水が入るとして、佐藤さんの肺に大量の水が入っていることは、佐藤さんが溺死したことの証明にはならないと判断したのは、論理的に許されない誤りである。死亡した猫の肺と、死亡した人間の肺を同じように考えてよいということを、さいたま地裁の裁判官は学会で発表して質疑を受けるべきである。

(2) 即時抗告審(東京高裁)に提出した中嶋鑑定書

中嶋鑑定の手法は、臓器に含まれる珪藻の濃度に着目する。 中嶋は、研究の結果、死体遺棄事例では臓器内の珪藻はほとんどなく、あっても河川よりも桁違いに少ない。これに対して、溺死した死体の肺に含まれる珪藻の濃度は、河川水に含まれる珪藻の濃度と同等か、それを上廻る極めて高い値となるとの知見を得た。水中で呼吸をするためである。 佐藤さんの肺に含まれる珪藻の濃度は、河川水に含まれる珪藻の濃度と同等かそれを上廻る極めて高い値であるので、入水時には、呼吸機能は保たれていた、と結論した。 死後投棄か、溺死かでは、臓器に含まれる珪藻の濃度が桁違いに違うので、コンタミネーションによる鑑定の誤りはあり得ない。

(3) 即時抗告審で採用された裁判所鑑定

確定第一審の証拠にもとづいて鑑定をしても、大野、中嶋は、コンタミネーションでは説明の付かない差がついており、溺死と判断することができると述べていた。 即時抗告審では、保管されていることが明らかにされた佐藤さんの臓器を使って、新たに鑑定することを決めた。鑑定人は、珪藻による溺死鑑定研究の第一人者にお願いした。 鑑定人は、珪藻検査が溺死判定に有用なものであることを述べると共に、慎重にも慎重を期して、佐藤さんの臓器を、内側と外側とに切り分けた。 そして、資料汚染の懸念のない臓器の内側、すなわち、肺の内側、心臓の内側、肝臓の内側、全ての臓器から珪藻が検出された。また、発見された珪藻の個数は、通常の溺死の場合と同程度であった。さらに、肝臓や心臓からは、小さく、細長い珪藻が検出された。 珪藻による溺死鑑定の第一人者により、コンタミネーションの防止に配慮して慎重に行った鑑定の結果、全ての臓器から珪藻が発見され、佐藤さんが入水した時生存していたこと、珪藻が循環作用により血管を通って臓器に回ったことが、晴れて明らかになった。 こうして、われわれが、再審開始のための証拠として再審請求審(さいたま地裁)に提出した大野鑑定が、再審開始の証拠として認められることが明らかになった。

2. プッテン殺人事件ほかを分析した論文ほかは、武、森田及びアナリエの証言が偽りの記憶であることを明らかにしており、刑事訴訟法の定める「無罪を言い渡(す)べき明らかな証拠」である。

(1) 佐藤さんの死因が溺死であることと武証言

確定第一審が、「極めて具体的且つ詳細で、迫真性に富」んでいるから信用できるとする武、森田及びアナリエの証言は、佐藤が、渡辺荘でトリカブト入りのあんパンを食べて死亡し、八木茂さんと武、アナリエで、佐藤さんの遺体を利根川まで運んで流したというものだった。 したがって、佐藤の死因が溺死であることを明らかにした大野鑑定1は、武らの証言の証明力も減殺するものである。

(2) プッテン殺人事件ほか、刑事事件で偽りの記憶が問題となった事例についての論文

アメリカで、記憶回復セラピーによって回復された記憶にもとづく証言によって、性的虐待の事実が取り上げられて社会問題となり、心理学者の研究の結果、記憶回復セラピーによって回復された記憶にもとづく証言は信用できないことが明らかにされたことについて、弁護団は、確定審で明らかにした。 そして、武と森田を取調べた佐久間検事の取調べは、記憶回復セラピーと同じ危険を孕んでいたことを主張した。 再審請求にあたり、われわれは、捜査が、偽りの記憶を作り出すという衝撃的な海外の事例に関する論文を入手し、再審開始のための証拠として提出した。 1つはプッテン殺人事件、1994年1月、オランダで発生した強姦の上の殺人事件。4人の男性が繰返し取調べを受け、当所は4人とも現場に行ったこと自体明確に否定していたが、取調べが進むうちに、徐々に4人は「思い出し」、最終的に2人が順番に強姦し、包丁で殺した、残りの2人はそれを見ていた、と自白した。有罪とされ、懲役刑。その後、DNA鑑定の結果、被害者の体内の精液は4人の誰の者とも一致しないことが分かった。そして、事件発生から14年後、DNAが一致する真犯人が見つかった。 この事件の取調べでは、①記憶が曖昧な被疑者に記憶を植え付ける、②被疑者に仮定的な話をさせる、③あからさまな偽計(ねつ造した鑑定結果を示す。)、④他の共犯者の供述と対決させる、⑤実際に起こった出来事の詳細を教える、⑥被疑者に推測を求める、ことが行われていたという。 同じように、自白した犯人が後にえん罪であったことが分かり、その取調べ方法を分析した結果が報告されている事件として、マイケル・クロウ事件、ビバリー・モンロー事件、ピーター・ライリー事件、マイケル・オルテンバーガー事件、ジェラルド・アンダーソン事件である。

武も、森田、アナリエも、こうした取調べを受けた結果、溺死した佐藤さんを、トリカブト入りのあんパンを食べさせて殺した、死体を八木茂さんと一緒に川に捨てに行った、などという記憶を回復してしまった可能性がある。

これらの事例に見られた虚偽の供述を誘導する危険のある取調べ方法について、典型的な14種類の分類に整理した文献がある。

武が、逮捕されてから、取調べの様子や、自分の考えたこと、思い出したことを書留めていた大学ノート(武ノート)には、プッテン殺人事件で行われた取調べによく似た手法を受けていたことが、たくさん書かれている。

われわれは,危険のある14種類の取調べ方法にあたる取調べを、武ノートの中から拾い上げたところ、全14種類102個の取調べを見つけた。

(3) 森田考子の供述調書

森田は、とにかく思い出すまで時間をかけてもらったと証言し、事件に関する記憶は、想起に努めた結果であることを認めていた。

思い出す過程で、プッテン殺人事件の①から⑥の取調べ手法や、危険のある14種類の取調べ方法が用いられていたことが、森田の証言の中にも多数表われていた。 確定第一審は、森田が、事件の記憶を失っていた、取調べでの想起の結果供述するに至り、その内容を証言したということを理解せず、森田は、事件の記憶を失ってはおらず、できるだけ思い出さないようにしていたという意味だ、などと判示した。 しかし、確定第一審の判決の後、森田は、弁護人に対し、平成7年6月3日に何をしたのか順番に思い出そうとしたり、様々な方法を試みたりしたことを語っており、その内容を録取した供述調書を、再審開始のための証拠として、提出した。

(4) アナリエ証言も偽りの記憶である

アナリエは、法廷で、平成7年6月3日、渡辺荘でもがき苦しむ佐藤さんの様子と、やがて佐藤さんが動かなくなったこと、固くなった佐藤さんの死体にシャツを着せようとして、できなかったこと、車で佐藤さんの死体を運び、川に流したことについて、日本語とタガログ語を交えて詳細に証言した。

これも、全て、佐藤さんが溺死だったことと相容れない証言である。 アナリエも、捜査官から、繰返し、思い出すようにと求められ、一生懸命に思い出そうとしたこと、その結果、「思い出した」のが、証言内容だったことが分かる。

われわれは、平成24年に、服役中のアナリエと面会する機会があった。アナリエは、われわれに、平成12年の取調べでは担当検事が武の話ばかりを信用していたといい、佐藤さんの死体を運んだことはなかったと、平成13年の証言の時とは違うことを話した。確定第一審での証言が間違いであることを、アナリエ自身が認めたのである。

このような証拠関係、取調べの実態、確定判決後の新たな証拠、即時抗告審で採用された鑑定結果から、即座に再審が開始されなければ、正義に反する。

以上。

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