会見のご報告

 

弁護団は、裁判所が選任した法医学者の鑑定結果を受けて、以下のとおり記者会見を行いました。

 

1 日時・場所等

 

平成26年8月8日(金)午後4時00分~4時30分

東京地方裁判所司法記者クラブ

 

 

2 会見内容

 

 (1) 会見の趣旨、概要の報告

 

【高野】 昨年12月、東京高等裁判所は、さいたま地検で保管されていた佐藤修一氏の臓器の再鑑定をするように命じた。本日は、その鑑定結果の報告をするため、記者会見を行う。本件の訴因は「トリカブトによる毒殺」であるが、今回の鑑定により、それが誤りであることがはっきりした。

すなわち、裁判所に選任された法医学者は、鑑定書において、佐藤氏の死因は、確定判決が述べるアコニチン中毒ではなく、利根川の水を大量に吸引したことによる「溺死」であると判断した。今回の鑑定書は、佐藤氏の臓器について詳細な検査をしたうえ、他の専門家による所見もあわせて判断したものである。

再審請求の経緯の中で、佐藤氏の死因が「溺死」であると判断した法医学者は、これで3人目である。死刑囚として拘置所にいる八木茂さんが保険金殺人をしたのでないことは疑いのない事実である。東京高等裁判所が一刻も早く再審を開始することを望む。

 

 (2) 鑑定書の内容の説明

【趙】 鑑定書の内容について、補足説明する。結論は、高野から説明のあったとおり、「佐藤氏の死因は溺死であると判断される」というものである。

本庄事件といわれるものの中には、佐藤修一氏をトリカブト毒で殺害したとされる「渡辺荘事件」と、「風邪薬事件」とがある。詳しくは昨年12月の記者会見の際の資料を参照されたい。今回の鑑定は渡辺荘事件に関するものである。

東京高裁は、佐藤氏の死因につき、確定判決ではトリカブト毒によるものだとされているところ、改めて真の死因を明らかにするため、今回の鑑定を命じた。

鑑定人の法医学者は溺死鑑定の第一人者で、この道の権威といえる方である。

判定手法として、プランクトン検査が用いられた。溺死の場合、水を大量に飲み込むことになる。水とともにプランクトンを飲み込んだ場合、肺の中に様々な大きさのプランクトンが入る。それらのプランクトンは、人体の循環作用により、肺にとどまらず心臓、肝臓などの臓器までたどり着く。プランクトンのうち、大きなものは血管等を通り抜けられず途中で止まる。肝臓までたどり着くのは、小さく、細いプランクトンとういことになる。プランクトン検査は、どの臓器にどのようなプランクトンが入っているかを調べることで溺死かどうか(生きている間にプランクトンを飲み込んだかどうか)を判断するというものである。

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確定判決では、佐藤氏を殺害した「後」に川に投棄したとされている。しかし、死亡した後であれば、大量に川の水を飲み込むことはないのだから、プランクトンが大量に、しかも心臓や肝臓から検出されることはない。再審になって、佐藤氏の肺、肝臓、心臓等がさいたま地検に保管されていることが明らかになり、これらの臓器について鑑定が実施されることになった。

鑑定においては、肺、肝臓、心臓について、臓器の外側と内側とが完全に切り分けられた。これは、資料汚染(コンタミネーション)の影響を排除するためである。

そして、(資料汚染の懸念のない)肺の内側、心臓の内側、肝臓の内側、全ての臓器からプランクトンが検出された。肝臓や心臓からは、小さく、細長いプランクトンが検出された。これは、(佐藤氏の生存中に循環作用により)血管を通ったことと整合する結果である。

このような検出結果を踏まえ鑑定人は、死因は溺死であるという判断をした。

高野の説明にあったとおり、これまでにも、溺死であると判断した医師は複数存在した。日医大の大野教授、東大の中嶋教授である。今回の鑑定は、裁判所が主体となって実施したものであり、コンタミネーションのおそれを極限にまで、完全に排除して溺死であると判断したものであり、極めて価値の高いものである。

 

【高野】 大循環系に小さいプランクトンだけが回るのは、そこまでたどり着くのに肺胞を通り抜けなければならないため。小さな生き物が八木さんの無実を証明している。「神は細部に宿る」という言葉があるが、まさしくそれである。

 

 

3 質疑応答(要旨)

 

Q1 今後のスケジュールについて教えて欲しい。

【高野】 鑑定書が出たばかりであり、確たることはいえない。裁判所には、鑑定結果を踏まえ、再審開始決定を出すよう求めたい。これまでの間、鑑定結果が出るのを待っている状況だった。このような結果が出たので、できるだけ早期に、原決定を破棄して再審を開始するよう求めていく。

 

 

Q2 八木さんの最近の様子について伺いたい。

【鈴木】 八木さんからコメントを預かっているので、代読する。

 

プランクトンは嘘をつかなかった。

私は、佐藤さんは坂東大橋から飛び込んで自殺したとずっと言い続けてきた。

壮大なトリカブトのストーリーは佐久間検事と武まゆみ氏が作った。

それで、僕を有罪した。

僕がマスコミで203回の記者会見で伝えてきたことが、鑑定で明らかになった。

私の無実が証明された。

そして、このことにより司法取引も暴露された。武氏が命と引き換えに司法取引をして嘘をついたことが、今後暴露されるだろう。

 

 

 

Q3 大野意見、中嶋意見と今回の鑑定との違いについて教えて欲しい。

【高野】 この事件は、1999年に本格的な捜査が開始された。その時点で、佐藤氏が亡くなってから4年が経過していた。佐藤氏の死の直後には、死因は溺死であるという鑑定が存在した。1999~2000年頃にも、埼玉医大で保管されていた佐藤氏の臓器をもとに鑑定が行われた。その際には、腎臓から珪藻が検出されたので死因は溺死だろうという結果だった。その後、捜査が急展開し、武まゆみさんがトリカブト殺人を「自白」し、これらの鑑定結果は闇に葬られていた。

(確定審における)証拠開示によってこれらの鑑定の存在が明らかになった。われわれは、鑑定に記載されているデータをもとに、溺死であるという主張をした。

再審請求をするにあたり、このデータと、弁護団で採集した利根川の水のデータをあわせ、大野教授に見てもらい意見を求めた。これが大野意見である。

また、即時抗告に至ってから、中嶋教授に同様のデータを示し、意見を求めた。これが中嶋意見である。

今回の鑑定は、また違うレベルのものである。すなわち、冷凍保存されていた臓器自体を用い、ゼロから鑑定した。即時抗告審の手続の中で、検察官が、初めて佐藤氏の臓器が保管されていることを明らかにした。われわれは、臓器をこのまま朽ち果てさせるのは正義に反すると訴えた。裁判所はわれわれの意見を汲み、鑑定を命じた。

 

【井桁】 なお、手続的には、今回の鑑定は裁判所が実施したものであり、主体は裁判所と言うことになる。鑑定の実施に先立ち、裁判所の主導で鑑定人の尋問を行い、調整や依頼も裁判所において行った。

 

 

Q4 今回の鑑定書の文言はどうなっているか。「溺死の可能性が高い」とか「溺死と思われる」とか、表現にも段階があると思うが。

【趙】 「溺死であると判断される」というものである。

 

 

Q5 今回の鑑定結果について、弁護団から新証拠として提出することになるのか。

【高野】 裁判所自身が職権で採用した鑑定であり、裁判所は当然この鑑定を前提として判断することになる。手続としては、即時抗告審であることを踏まえ、これまで提出してきた証拠の明白性を裏付ける極めて有力な証拠、という位置づけになるだろう。最も詳細かつ注意深い鑑定であるので、証拠としての価値は極めて高い。これ自体が新証拠といってもよいくらいである。

 

 

Q6 再審請求審では、どのような判断だったのか。

【高野】 さいたま地裁は、大野意見について、新証拠であることは認めたが証拠の明白性を認めなかった。さいたま地裁は、要するに、死体が川を漂っている中で、珪藻が入ったとしても矛盾はないのだと述べた。しかし、これは法医学的にはおかしな判断である。いずれにせよ、さいたま地裁は、大野意見だけでは無罪にはできないのだとした。

 

 

Q7 トリカブトについてはどのような位置づけになるのか。

【高野】 トリカブト成分が検出されたという話はあるが、これは、毛髪からごく微量のアコニチン系アルカロイドが検出されたというもの。臓器からもわずかに検出されているが、致死量のトリカブトが摂取されたという客観的証拠はどこにも存在しない。これは確定判決も認めている。武さんのトリカブトの根っこをあんパンに入れて食べさせたという供述で認定しているにすぎない。

 

【井桁】 あんパンに入れてトリカブトを食べさせたという認定がされているにもかかわらず、死体の胃などからは、あんぱんの残りやトリカブトが全く出てこなかった。

 

 

Q8 確定判決によれば、死体を遺棄したのは誰だということになるのか。

【高野】 八木さん、武さん、アナリエさんだとされている。

 

 

Q9 鑑定書はどのようにして入手したのか。また、鑑定の実施については弁護人が請求したのか。

【高野】 鑑定書は裁判所から本日提供を受けた。証拠を開示し、鑑定を実施すべきだということについては、弁護人から意見を述べた。臓器があると分かったのは即時抗告審になってからで、再審請求審の際には裁判所も消極的で一切の証拠開示がなされなかった。東京高裁は、弁護人の意見を一部とり入れ、臓器の存否を明らかにするよう検察官に求め、また、多数の供述調書についても開示させた。

 

 

Q10 鑑定の実施に当たり、検察官からはどのような意見があったのか。

【高野】 検察官は、鑑定をしてもコンタミネーションの可能性がある、どれほど注意を払ってもコンタミネーションは排除できないと述べた。これに対し、今回の鑑定人は、コンタミネーションは排除できるし、コンタミネーションがあっても区別は可能なのだという見解を述べていた。

 

【趙】 検察官は、プランクトン検査自体が有用でない、という意見さえ述べていた。これはあり得ない見解である。

 

【井桁】 鑑定人は、コンタミネーションについても鑑定書で言及している。また、プランクトン検査が有用であるということについても、改めて明らかにしている。

 

 

Q11 大野意見と中嶋意見は何に基づくものか。

【高野】 1999年の埼玉県警の科警研が行った鑑定、南雲医師の鑑定書に記載されているデータと、弁護団が採取した利根川の河川水のデータに基づく。

【趙】 この段階では、どの臓器が残っているのか、明らかにされていなかったので、記録に基づいて意見を述べてもらった。

 

 

Q12 鑑定は渡辺荘事件に関するものだとのことであるが、風邪薬事件にも影響があるのか。

【高野】 影響する。いずれの事件も、武まゆみさんの証言が唯一の証拠であるといってよい。武さんは、捜査機関が約1年間にわたり逮捕・勾留・起訴を繰り返している間、詳細な日記をつけていた。その日記には、濃密な取調べが行われ、そのなかでこのままでは死刑になると佐久間検事に脅され、「自白」を始める経緯が記載されている。最終的には、「記憶がよみがえった」として、鮮明な証言をした。われわれは、この「自白」が違法な取調べによる偽りの記憶であると主張してきた。北海道大学の仲教授も、典型的な虚偽記憶症候群の兆候を呈していると述べた。しかし、確定審では採用されなかった。

今回の鑑定により、武さんの証言は根底から覆ることになった。改めて、彼女の証言が濃密な取調べによる虚偽記憶だということが明らかになってといえる。

 

以 上

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